高齢者の『てんかん』その2
前回、高齢発症の「てんかん」患者さんが、認知症として治療されることがあるということを書きました。
今回は、最近、老年医学や認知症診療の専門家の間で話題になっている、もっと分かりづらい、本人はもちろん、そばで見ている家族にも分からない「発作」について書きます。
「一過性てんかん性健忘」と呼ばれているものです。
主に初老期以降に発症し、短時間から数日にわたって、繰り返し記憶の抜け落ちを示す病気です。
この記憶が途切れている期間、患者さんは正常な行動をします。
例えば、友人と普通にゴルフをしたのに、後日、その記憶が抜けていることに気付くというものです。
しばしば「今日は何曜日?」というような質問を繰り返します。
発作が持続する(非けいれん性発作重積と言います)と、記憶のない期間は数日に及ぶこともあります。
正常な時と、発作の時とのギャップや、目覚めの頃に発作を起こすことが多いことから、睡眠時に行動異常を起こすことがあるレビー小体型認知症に間違われる恐れがありますが、MRIなどの画像検査や、通常の認知機能検査(記憶力の検査など)では、異常が見られません。
そのため、認知症の前段階(MCIと呼んだりします)とされることもあります。
脳波検査で側頭葉に異常な波を見つけることが診断の決定打になります。
治療は、他の高齢者の「てんかん」と同じように、抗てんかん薬が有効とされています。
途切れた記憶が戻ることはありませんが、発作が抑えられれば、記憶が抜けてしまうことは避けられます。
ちょっと変わった「てんかん」について書きましたが、アルツハイマー病などの認知症に、「てんかん」が合併することもあります。
認知症を疑ったら、認知機能検査やMRIなどの画像検査だけでなく、脳波検査も必要です。
口臭ケアをされている方へ
人とのコミュニケーションを取る方法には様々なものがあります。欧州の国には挨拶代わりにキスを交わすほど、人との距離感が近い国がある一方、日本人はコミュニケーションの際にそれより一定の距離を維持する傾向があります。そのためでしょうか、そういった距離感が近い文化がある国の人は、口臭ケアに敏感であるという話を耳にします。
そうはいっても、近年我々日本人もやはり口臭ケアをされている方は多くなっています。口臭対策として市販の洗口液(例:コンクールF、リステリン®、モンダミン等)を使用されるケースが多いようです。洗口液に含まれることがある塩化亜鉛や二酸化塩素、カテキンは、口臭の主成分である揮発性硫黄化合物に作用し、口臭の減少が期待されます。また、同じく洗口液に含まれることがあるグルコン酸クロルヘキシジン(CHG)やセチルビリジニウム塩化物(CPC)は、口臭の主成分を産生する口腔細菌への殺菌作用のため、口臭の元を断つ効果が期待されます。しかし、洗口液を使っても効果が実感できなく、やめてしまった方もいらっしゃると思います。
前回のコラムで掲載しましたが、口臭を根本的に減らすには歯科医院で原因を診断し、それが歯周病や虫歯等であれば治療し、口腔清掃が不良である場合は歯に付いた汚れを歯ブラシ等で除去し、舌の上にある舌苔を舌ブラシ等で除去する必要があります。
洗口液の効果が期待できるのは、プラークコントロールができている状態で使うことです。一番効果的なのは歯科医院で専門的口腔清掃を行った後に、洗口液を使い続けることです。
口臭対策を希望する方のほか、虫歯になりやすい方や歯周病対策が必要な方、お口が渇きやすいという感覚をお持ちの方など、様々なケースがございます。洗口液をお使いいただく場合、歯科医院でご自身にどの洗口液が合っているかをご相談されるのもよろしいかと思われます。
帯状疱疹は、早期治療と予防が大切です
帯状疱疹(ほうしん)は、体の抵抗力が落ちると、自分の体の中に残っている水ぼうそうのウイルスが神経を通って、左右どちらかの皮膚に痛みや水疱(すいほう)が出現する疾患です。
今年の夏は寒暖差が激しく、体調を崩されたためか、帯状疱疹で受診される人が多くなっています。
現在の帯状疱疹の内服薬はウイルスの増殖量を抑える効果が期待できますが、早期に治療を行わないと効果が出づらく、神経痛が残ってしまうことや、水ぼうそうにかかっていない人に水ぼうそうとしてうつしてしまうことがあります。
もし、左右どちらかの皮膚に帯状に痛みや水疱が出てきたら、早目に皮膚科を受診してください。
また50歳以上の方は帯状疱疹の予防に水ぼうそうのワクチンが接種できるようになりました。
こちらは自費であり、行っていない病院もありますので、受診前に電話でご確認ください。
胃アニサキス症に注意しましょう
魚の生食にまぎれて人間の口から入り込み、主に胃で悪さをするアニサキスという名前の寄生虫がいます。
胃アニサキス症の症状は食品を摂取して数時間後の激烈な胃痛が典型的ですが、吐き気やじんましんを伴うこともあります。
これらの症状はアニサキス症に特異的なものではありませんが、食事内容の問診と典型的な症状から疑う病気の一つになります。
そして緊急で胃カメラを行うと、白くて細長い2cmほどの虫体が頭を胃の壁に突っ込んでにょろにょろもがいているのを観察できます。
確認されたら引き続き内視鏡を通じて鉗子(かんし)と呼ばれる器具を挿入し、つまんで除去します。
その後速やかに痛みは引けていき治療は完了です。
アニサキスはもともとクジラやイルカが宿主(寄生する先の生き物)であり、人間は宿主ではありません。
クジラやイルカに食べられる前のイカやサバなどの魚の体内で幼虫の状態になっており、人間に悪さをするのは実はこの幼虫なのです。
ですから人間の口からうまい具合に入り込んだものの、人間の胃はアニサキスにとって好適な環境ではなく、成虫にもなれずに迷走の末、胃の壁から出ようとしているのかもしれません。
もがいているうちに数日で自然に死んでしまい、吸収されたり便とともに排せつされたりして排除されます。
アニサキスは食品の70℃以上の加熱か、マイナス20℃以下で24時間の冷凍で死滅します。
なので確実な予防策としては加熱か冷凍を、ということになりますが、新鮮な刺身のおいしさは日本人にとって何物にも代え難いものであり悩ましいところです。
他の予防策として、食物に付着した虫体が肉眼で見える場合は除去したり、アニサキスは虫体が損傷すると動かなくなるため、よくかんで食べることで発症を防げる場合もあるだろうと想定されています。
新鮮な魚はアニサキスの寄生に注意しながら食べましょう。
糖尿病網膜症診療の現況
現在、糖尿病とそれを強く疑う患者さんは1000万人を超えるといわれています。
糖尿病になると網膜血管の細胞が高血糖になって障害され、糖尿病網膜症になります。
糖尿病網膜症は糖尿病の最も怖い合併症の一つで、糖尿病患者の15~30%に生じます。
初期には自覚症状がなくじわじわ進行し、網膜症が起こるのは糖尿病発症後平均7~8年です。
1992年に糖尿病網膜症は視覚障害の原因の1位でしたが、2017年には3位となっています。
これはこの25年で内科の先生による血糖コントロールがより良好に行われるようになったことと、早期に糖尿病網膜症の診断・治療がされるようになったこと、そして眼科診療の進歩によると思われます。
糖尿病網膜症に対する病態の把握はこれまでの眼底検査や眼底造影検査に加えて、光干渉断層計(OCT)や広角眼底検査によってより正確にされるようになりました。
また、糖尿病網膜症の治療は網膜レーザー光凝固や硝子体(しょうしたい)手術の普及により失明に至る患者さんは減少しました。
重度の視力障害になる患者さんは減少しましたが、現在糖尿病黄斑浮腫による視機能の低下が問題になっています。
黄斑浮腫の治療はこれまでの網膜レーザー光凝固、硝子体手術に加えて、ステロイドの眼局所投与、VEGF阻害剤硝子体投与が行われています。
以前より視機能の改善が期待できるようになりましたが、まだまだ限界があります。
さらに最近ではOCT Angiography という造影剤を使わない検査やパターンスキャンレーザー、小切開硝子体手術のような低侵襲の治療が行われています。
診療はより進歩していますが、早期発見、早期治療が重要です。血糖検査を行い、糖尿病と診断されたら眼科を定期的に受診することをお勧めします。
眼科の検査
眼底検査を受けたことはありますか?
瞳孔の奥にある網膜の血管や視神経の状態を診る検査です。
それにより糖尿病網膜症、網膜剥離や緑内障、動脈硬化などさまざまな異常を発見できます。
当院での眼底検査の流れは散瞳剤(瞳孔を開く薬剤)を点眼してから30分お待ちいただきます。
瞳孔が開いたら眼底カメラや検眼鏡を使い診察で詳しく診ます。
検査は30分程で終わりますが、薬の効果でピントが合わせにくくなり、まぶしく感じます。
効果がきれるまで4~5時間かかるので車の運転は控えていただくくようにしていますが、遠方から運転の方や公共の交通手段がない場合は院内でお休みしてからお帰りいただいています。
眼の検査といえば視力検査や眼圧検査を思い浮かべる方も多いと思いますが、眼底検査も大事な検査です。
病気の早期発見、早期治療につなげるためにも一度、眼の検診を受けてみてはいかがでしょうか?
成人の8人に1人が慢性腎臓病!? 身近に潜むサイレントキラー(沈黙の殺し屋)
ある日の泌尿器科外来
「どこも痛くないし具合が悪いわけでもないのに私の腎臓が悪いって本当ですか?」
夜間、トイレに起きるようになってきたため泌尿器科へ受診された患者さんです。
超音波検査で腎臓を見ると少し小さい。
念のため検査をしてみると腎臓機能低下が判明しました。
腎臓機能が徐々に低下してくる慢性腎臓病。
多くの場合は本人が自覚するような症状がありません。
それゆえ病気が分かった時にはすでに末期腎不全ということもあり慢性腎臓病はサイレントキラー(沈黙の殺し屋)とも呼ばれます。
そんな病気が実は身近に多く潜んでいることが分かっています。
日本では成人の8人に1人が慢性腎臓病と報告されています。
さらに高血圧症や糖尿病、脂質異常症などメタボリック症候群の人では、その頻度は更に上昇すると言われます。
「私の腎臓、治るのですか?」
慢性腎臓病は、いったん腎機能低下が進むと元に戻すことができません。
しかし発見が早ければ病気の進行を抑えることが可能で末期腎不全の危険を回避することができます。
「私、どうして腎臓病になったのかしら?」
慢性腎臓病はメタボリック症候群以外にもリウマチなどの膠原(こうげん)病、排尿障害、喫煙習慣、あるいは遺伝が関係している場合もあり原因は多種多様です。
それゆえ多くの人が腎臓病になる可能性があるのです。
慢性腎臓病は早期発見がとても大切です。
定期的な検査が重要なのです。
自覚症状のない早い段階でも健康診断などで採血や採尿検査、血圧検査をすることで診断することができます。
また次のような症状には注意が必要です。
夜トイレに起きるようになった、手の指や足がむくんで指輪や靴がきつく感じるようになった、以前にくらべて疲れやすく体がだるい、時々立ちくらみがある。
慢性腎臓病も腎機能低下が進んでくると自覚症状が出てくることがあります。
このような症状に気が付いたら医療機関にご相談下さい。
成人の8人に1人が慢性腎臓病なのです。
お薬の管理について
お薬の管理はどのようにしていますか?
長期にわたり通院や複数の医療機関に通院している方は、お薬の種類も多くなりがちです。
通院がなかなかできないから、とたくさん処方してもらって、たくさんのお薬が残っていませんか?
お薬の中には湿度が高い状態を苦手にしているものもあります。自宅での長期間の保管はお薬の性状を変える可能性もあります。
一度残っているお薬を確認してみてください。
また、医療機関を受診する際は「お薬手帳」を必ず持参してください。
お薬の重複やよくない飲み合わせを未然に防止でき、より安全にお薬を処方することができます。
この「お薬手帳」にはドラッグストア等で購入した一般用医薬品や健康食品なども、自分で記載しておくと受診時に、よくないお薬の組み合わせや食べ合わせが思いがけず見つかることがあります。
「お薬手帳」は、いつも携帯してください。
旅行先で病気になった時や災害時に避難した時、また救急外来を受診した時などに飲んでいるお薬を正確に伝えられます。
また飲んでいるすべてのお薬を「1冊に」記録することが大切です。
病院ごと薬局ごとで別々に「お薬手帳」をもらっている方は、一冊にまとめましょう。
お薬の管理が難しく、飲み忘れや、飲んだことを忘れて2回服用してしまうことはありませんか。
また、きちんと内服できていても、毎日の管理が大変と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
お薬の管理が自分で困難な場合は、薬剤師がご自宅に訪問してお薬の設置支援を行うことも可能ですし、介護サービスをうまく利用して服薬介助を受けることも可能です。
また処方日数や剤型等の変更が可能なことがありますので、まずは主治医に相談してみてださい。
睫毛(まつげ)ダニとは?
最近テレビなどで取り上げられている睫毛ダニは、睫毛の根元にすみつきます。
睫毛ダニは、ひとたび目の周りが不衛生になると、皮脂や化粧品を食べて活発に繁殖しだします。
《症状》睫毛の生え際がかゆい・ふけのように白くなっている・ゴロゴロする・充血する・まぶたが腫れる・目やにが大量に出る・目が乾く・睫毛が抜けやすくなった、などの症状がある方は、睫毛ダニがいるのかもしれません。
《原因》寝たきりで洗顔ができていない・メイク落としが不十分・洗顔しないで寝る・「アイライン」「マスカラ」「つけまつげ」「エクステ」で睫毛の内側の皮脂腺が詰まっている、などの原因が考えられます。
《診断》肉眼では分からないので自分で見つけるのは困難ですが、眼科では、睫毛を数本抜いて顕微鏡で診察すると見つけることができます。
特に濃いアイメイクやエクステなどをしていて目が乾く症状が強く出ている方は要注意です。
日本人の5人に1人はすみついており、20代の方では2人に1人がすみついているとも言われています。
心配な方は、眼科で調べてもらいましょう。
おたふくワクチンを受けましょう
今年4月から始まったNHKの「連続テレビ小説 半分、青い。」の主人公 楡野鈴愛(にれのすずめ)は、おたふくかぜにかかったかはっきりしないまま、片方の耳が聞こえなくなり、病院でおたふくかぜによる難聴と診断されます。
その後の主人公は、難聴であることをむしろ楽しんでいるような印象ですが、皆さんのお子さんがおたふくかぜで難聴になったらどうでしょう。予防できる手段があったのにと言われるかもしれません。
おたふくかぜに伴う合併症をお母さま方に聞くと多くの方は男性の不妊と言われます。確かに、成人近くなっておたふくかぜにかかればそういう合併症もあるでしょう。しかし、本当に恐ろしいのは難聴になることです。鈴愛のように、おたふく風邪の症状がないままおたふくにかかっていたというのはおたふくかぜ全体の20%程度あると言われています。
難聴になる頻度はおたふくかぜにかかった人の約1000人に1人と教科書的には書かれています。しかし、この十数年の間に出た論文を見てみますと、200ないし300人に1人という極めて高い頻度で合併するとの報告が多くみられます。この難聴は治ることはなく、ごくまれには両方が難聴になる場合があります。言葉を覚える前に両方の難聴になれば、子どもにとって大きな痛手になることは明らかです。
難聴を発症するのはほとんどがおたふくかぜワクチンを打っていないお子さんです。残念ながら、現在でもおたふく難聴の治療法はありません。唯一防ぐのは、おたふくかぜワクチンを打つことしかありません。おたふくかぜワクチンの主な有害事象は無菌性髄膜炎です。ワクチンを打った後に熱が上がり、頭痛やおう吐がおこるというものです。一般的には後遺症はありません。
おたふくかぜによっても同じような無菌性髄膜炎が起きますが、頻度は高く、ワクチンによるものよりは重症です。
ワクチン接種は1歳の時と年長児、2回の接種が推奨されています。接種料金は各医療機関にお問い合わせください。










