むくみ(浮腫)
「先生、毎年冬が近づくと靴が履けないくらいに両足がぱんぱんにむくむのですが…」と、心臓疾患で通院中のAさんは、困った顔をして聞いてきました。
どうやら、体重も2、3Kgは増えているとのことです。
人の身体の水分量は体重の60%といわれています。
その配分は、細胞内に40%、血管内に5%、組織液に15%となります。
組織液とは、間質液とも呼ばれ、動脈の血管の壁を通り抜けて血管外の間質組織へ出た液体のことです。
血管の外側にある細胞に栄養や酸素を配ったり老廃物を流し去る役割があります。
増えた組織液は静脈の壁を通り血管へ戻り、また戻りきらない水分はリンパ管を通って排水されます。
体重50Kgの人であれば7・5Lもの組織液を保有していることになり、むくみ(浮腫)は、その組織液が何らかの原因で産生量が増加するか排水系に障害が起こる場合に出現します。
浮腫を起こす原因疾患は、心臓疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、妊娠中毒、血管やリンパ管の炎症や閉塞、貧血、脚気などたくさんあります。
Aさんのように心臓疾患がある人が、暑い夏の間に脳梗塞や熱中症の予防目的で水分や塩分を多めに摂っていた場合、秋になり発汗量が減少しているにもかかわらず同様に水分や塩分を多めに摂り続けていると、腎臓からの排尿だけでは摂取した水分量を排水しきれなくなり、身体に水分を貯め込んでしまうために浮腫が起こります。
1日にたった100mlが身体に残ったとしても、1ケ月間続くと3Lの水が身体に残り浮腫として現れ、その時に体重は3Kgも増えていることになります。
このようなケースでは、利尿薬を内服することで改善する場合が多いのですが、まずは摂取水分量の見直しが大事です。
浮腫の予防には、水分塩分を摂り過ぎない、長時間立ち続けるや座り続けることをしない、運動不足にならない、ふくらはぎの筋肉を動かし筋力を維持する、アルコールを摂り過ぎない、寝不足やストレスで自律神経バランスを崩さないなどが重要です。
風邪の季節になりました
風邪は、鼻やのど・気管支などの粘膜の炎症の総称です。
高齢者や、糖尿病・がんなどの病気を持っている人は細菌感染が原因となる確率が高くなるといわれていますが、一般的にはウイルス感染が原因です。
風邪の原因となるウイルスは何百種類もあり、インフルエンザなど一部を除いては、予防や治療をすることは出来ません。
細菌感染が原因の場合は抗生物質で効果がありますが、ほとんどの場合はウイルス感染が原因であるため、風邪の初期には抗生物質を飲んでも効果は期待できません。
現在、風邪薬として市販されていたり病院で処方したりする薬は、風邪そのものを治療するのではなく風邪の症状を和らげる薬で、本当の意味で風邪を治すのは自分自身です。
私達の体はウイルスが体の中に侵入すると、いろいろな手段を使って排除しようとします。
鼻や喉から侵入したウイルスを排除するために鼻水や、咳や痰(たん)が出たりします。
ウイルスを攻撃する白血球やリンパ球は温度が高い方が活発に活動するため、活動しやすいように体温を上昇させます。
逆に、インフルエンザも含め、風邪のウイルスは温度があまり高いところでは増えにくいということがわかっています。
熱が出るのは、体温を上昇させて効率よく免疫細胞を働かせ、ウイルスの増殖を抑えるという効果があるのです。
ですから、熱が出たからといってあわてて解熱剤を飲んで体温を下げると、逆にウイルスを増やしてしまい、風邪の治りを遅くしてしまう場合があります。
ウイルスとの戦いにエネルギーを消費するため、だるさが出たり、消化の働きがわるくなるため、食欲が落ちたりもします。
そんなときには無理をせず、水分補給だけにするか、消化のよいものを摂った方がよいでしょう。
風邪のひき始めは暖かくして、しっかり休養をとることが大事です。
薬はあくまでも症状を和らげることが目的ですから、薬を飲んでいるからと安心して無理をすると、逆効果になってしまいます。
かわりゆく糖尿病の食事療法について
最近テレビなどのダイエット番組で取り上げられている「低糖質ダイエット」。
それに近い考え方の糖尿病の食事指導があります。
カーボカウントといいます。
この考え方を紹介するときに有名な話があります。
アメリカでインスリン治療中の患者が、バーベキューの後で低血糖となるという話です。
え? あんなに肉の塊を食べたのに??
患者さんも医師もびっくりです。
低血糖となった患者は、肉を多く食べて、炭水化物~ライスやパンをほとんど食べていなかったそうです。
つまり、食後の血糖の上昇を左右するのは、肉・油(タンパク質・脂質)ではなく、ご飯・イモ・パンなどの炭水化物(糖質)であるということです。
このカーボカウントというのはカーボ(炭水化物=糖質+食物繊維)の量からどのくらい血糖値が上昇するかを考え食事に応用するものです。
はじめは、インスリン依存型の糖尿病の方が、食前の血糖値から、食べる炭水化物の量を考え、食後の血糖値を予測して、基本的なインスリン量に追加インスリンを加え血糖コントロールを行うものでした。
日本人に多い2型糖尿病は、一般的に1gの炭水化物で3mg血糖値が上がるといわれています。
ご飯1膳150gには、55gの糖質が含まれています。
2型糖尿病の人がご飯を食べると理論上は55×3=165mg血糖値が上がる計算になります(実際には、その人のインスリン分泌量によって上下します)。
ところが焼肉(塩)200gでは炭水化物を含みませんのでほとんど血糖値は上昇しないのです(甘いたれは、糖質なので血糖値を上昇させます)。
炭水化物を多く含む食品は、ごはん・パンなどの穀類、豆類、じゃがいも・かぼちゃなどの根菜類、果物、乳製品(乳糖)です。
また炭水化物(カーボ)(g)を、主食の総重量から計算する方法もあり、米飯40%、パン50%、ゆで麺20%を総重量にかけると炭水化物量になるとしています。
このように今後は食事の炭水化物の量を主に考え血糖値と付き合う時代になりつつあるのです。
ただし糖尿病の方は主治医と相談しながら行って下さい。
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は健康な人もかかる肺炎です。
昨年7月から冬まで猛威をふるい今年はさらに勢いを増しており、8月下旬の時点で去年の1.5倍のペースで増えています。
病原体は細菌より小さくウイルスより大きい微生物で患者さんの咳の飛沫(ひまつ)に濃厚に接触するとうつります。
このため家庭・職場・学校などで流行することがあります。
感染者全員が肺炎になるとは限らず気管支炎程度で治癒される方もいます。
特徴的な症状は発熱・頑固な咳・倦怠感などです。
鼻水が出たり喉や耳が痛くなる方もいます。
合併症としてしばしば肝機能障害を認めます。
また、まれに心筋炎、中耳炎、髄膜炎、発疹、ギランバレー症候群(全身の力が入らなくなる神経疾患)を合併する方もいます。
診断は症状・レントゲン・血液検査などで行います。
治療法は特定の抗生物質を使います。
発見が遅れると重症肺炎になる方もいます。
長引く風邪や咳がひどい時は早目に医療機関を受診してください。
ペットボトル症候群
糖尿病の急性合併症の一つに糖尿病ケトアシドーシスがあります。
ケトンという酸性の物質が体の中にたまって血液が通常より酸性(アシドーシス)になった状態で、嘔き気(はきけ)・嘔吐(おうと)や倦怠(けんたい)感が出たりします。
放置すると意識障害を起こし、命にかかわることもあります。
糖尿病の患者さんが糖分を含む清涼飲料やスポーツドリンクなどを大量に飲むと、血糖値が上昇するため喉の渇きが強まり、さらに清涼飲料を飲んで血糖値が上昇するという悪循環に陥ります。
その結果、著しい高血糖とケトアシドーシスを来します。
糖尿病の人はもちろんですが、糖尿病の自覚のない隠れ糖尿の人にも起こることがあり、この人達がペットボトル入りの清涼飲料をたくさん飲んでいたことからペットボトル症候群と名付けられました。
特に肥満の若年男性に多いといわれています。ご注意を!
『夏風邪』注意!
そろそろ夏本番です。
夏は、急な気温の変化に加え、様々なイベントのため疲労がたまり、免疫力が低下することで「夏風邪」をひきやすい季節となります。
夏風邪の原因となるウイルスは、冬に流行するウイルスと異なり、症状も大きな違いがあります。
それを知らずに冬の風邪と同じ対応をすると、かえって風邪をこじらせて悪化させてしまうことがあります。
通常の風邪のウイルスは、低温で乾燥した環境を好みますが、一部のウイルスは、高温多湿を好み、夏に活動的になります。
夏風邪は、発熱と、腹痛や下痢、喉の痛みなどが特徴的な症状です。
発熱があると、市販の解熱鎮痛剤や風邪薬を使う方が多いですが、腹痛や下痢を伴う場合、市販薬には、胃腸障害や便秘を起こしやすいものがあるので注意が必要です。
下痢は、ウイルスを外に排出するための症状でもあるので、下痢止めや風邪薬で下痢を
無理に止めてしまうと、かえって症状が長引くこともあります。
しかし、数日間、下痢が続くと、脱水症状になりやすいので、水分をこまめに摂ること、
特に子供や高齢者は、脱水症状に気付きにくいので、定期的な水分補給が大切です。
喉の痛みには、初期のうちであれば、うがいや「濡れマスク」が効果的です。喉は、乾燥すると免疫力が低下し、ウイルスが繁殖しやすくなるからです。
ただし、夏風邪のウイルスは、高温で不潔な環境を好むので、マスクは早めに交換し常に清潔なものを使用しましょう。
冬の風邪は、咳やくしゃみによる飛沫感染が中心ですが、夏風邪は、経口感染が多く見られます。
家族に感染者がいる場合は、手洗いやうがいを心がけ、トイレや洗面所のタオルの使いまわしは止めましょう。
湿って汚れたタオルには、夏風邪のウイルスが繁殖しやすいのです。
また、夏風邪の場合、38度台の熱が、数日続くことがよくあります。
そんな時、ふとんをかぶって、無理に汗をかいて治そうとする人がいますが、夏期は、体力を消耗しやすいので、これは要注意です。
水分を十分に摂って、ゆっくり休み、体力の回復を心がけましょう。
しかし、腹痛や下痢が続くとき、また、喉が腫れて飲み物が通りにくい時は、早めに病院を受診して下さい。
在宅療養支援診療所として
早いもので開院3周年を迎えました。
当院の外来では、お子様からご高齢者まで幅広い方々にご来院いただき、在宅療養支援診療所として、可能な限りご家庭と医療が密接にかかわり、頼りになる街のお医者さんを目指してより良い医療を提供できるよう努力をしております。
在宅支援をする上で大切なことがあります。
昔は当たり前だった、「“一家の”かかりつけ医」の考え方です。
なぜ昨今「かかりつけ医」を求めるようになったかというと、現代病と言われている病気(糖尿病・高血圧症・高尿酸血症・高コレステロール血症等)に関しては、患者さんひとりの問題ではなく、一家全体の問題としてご家庭の状況を把握していくことが重要と考えます。
本人はもちろん家族全体の病気や家庭環境等を把握していくことにより、疾病の早期発見や家族内に起きやすい病気の予防法などを細やかに判断することが可能となることもあります。
現代病に限らず、風邪ひとつとっても同じだと考えられます。
特にご高齢者が同世帯に住んでいる家庭でご家族が風邪をひき、ご高齢者の方が感染し、初めは風邪症状だったため軽視していても、その後、肺炎等の重篤症状を併発してしまうという状況も少なくないのです。
地域医療や介護に関しては前述の考え方が非常に重要となってくることもしばしばあります。
他にも、悪性腫瘍等の症状等で痛みのコントロールや病態の観察が必要な状況でも、在宅で暮らしたいという方も年々増加しています。
近年は「入院ありき」の考え方から「在宅ありき」にシフトしていることは間違いありません。
総合病院等を含めた医療連携も行っているため、まずは外来に来ていただいた際に医療・介護に関してお困りのことをお聞きすることができる場所として活用いただければと思っております。
お話をすることで緩和されるお悩みもあるはずです。
各専門スタッフが常駐しておりますので、お気軽にお問合せいただければと思います。
高齢者の熱中症と水分摂取
「先生、これから暑くなると熱中症が心配なのですが、心臓が悪い私はどれくらいの水を飲んでもよいのですか?」と、心不全で入院したことがあるAさんが聞いてきました。
どうやら、これからの夏を節電のためにエアコンの使用を控えようと考えているとのことでした。
熱中症は毎年梅雨明けから増え始め近年の患者数は増加しています。
平成22年度の統計調査によると、特に高齢者の熱中症では重症化する例が多く、熱中症全死亡者数の約8割が65才以上、死亡者数のピークは75才から89才の後期高齢者でした。
若い人の熱中症はスポーツや労働中に屋外で発症することが多く、独居または配偶者との2人暮らし、家にエアコンがないなどの特徴がありました。
高齢者特有の原因としては、不快な高温多湿環境に気づくのが遅れる、発汗機能が低下しているため体温調節が鈍化していることなどがあります。
熱中症の予防には、室温湿度の管理と水分補給が重要です。
節電に協力もしたいところですがエアコンや扇風機を適切に使用し、湿度計付き温度計を居室に置いて、室温28度以下、湿度60%以下に明確に定めて管理しましょう。
飲水は、口渇に気づいた時はかなり脱水が進行している場合が多いため、一日の食事以外の水分量をあらかじめ決めておき、定期的に飲むようにすることが大切です。
夜に緑茶やコーヒーを飲むと就寝後のトイレが増えますので、カフェインを含まないお茶や水の補給が良いでしょう。
高齢者ではAさんのように心臓病のために医者から水分摂取量を制限されている人もいます。
飲水増量が過度となり浮腫や心不全を発症させないようにすることが重要です。
まずは飲水量を100ml増量して体重や浮腫が増えないことを数日間確認し、大丈夫であればさらに100mlずつ慎重に増量していきます。
さらに重要な点は、夏が終わる頃には発汗量が減少しているので飲水量も元に戻すことを忘れないことです。
コレステロール論争
平成22年9月、脂質栄養学会から「長寿のためのコレステロールガイドライン2010年版」が発表されました。
その内容は、中年〜高齢の一般集団では、コレステロール値の高い方が低いよりも癌死亡率や総死亡率が低いので、コレステロール値を下げる医療や食事指導は誤りである、というものでした。
この発表により、コレステロールに関する認識が覆され、治療中の患者さんや一般の方々の間に大変な混乱を招きました。
この発表に反対の立場をとる日本動脈硬化学会は、同年10月に次のような声明をだしました。
肝臓疾患や癌患者などの低栄養状態の人達のコレステロール値はそもそも低値であり、そのような状態の良くない人達を含めた一般住民の統計から「コレステロール低下療法は誤りである」としたのは、コレステロールが最初から低値であるという事と高値から低下させる事を混同して論じており、国民に誤解を与えるというものでした。
90年代から最近までに報告された幾つかの臨床試験では、悪玉コレステロール(LDL)値を下げると動脈硬化を基にする疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の発症が減少するという、科学的に信頼性の高い評価を受けています。
さらにそれらの試験結果から、二次予防(1回心筋梗塞を起こした人が2回目を起こさないための予防)では、LDL値は出来るだけ低値へ下げる方が良く、一次予防(まだ発症していない人の予防)では、動脈硬化リスク(男性、高血圧、糖尿病、喫煙、低HDL、冠動脈新患の家族歴)を多く合わせ持っている人ほど下げる方が良いとされています。
また、75才以上の高齢者や女性の一次予防に関しては議論の多いところですが、LDLとHDL(善玉コレステロール)の比や頚動脈エコー検査などで個々の病態を検討し、リスクが高い場合は下げる方が良いと言われています。
現在治療中のかたは、食事療法や内服治療を突然中止したりせず、不安がある場合は医師に相談しましょう。
病院の血圧と家庭の血圧、どちらが重要?
家庭血圧計はすでに3500万台が日本の各家庭にあり、その普及に伴い近年の高血圧診療は少しずつ変化してきています。
100年以上前から診察の際に行う血圧測定は、その膨大なデータと医学的根拠に裏付けされ、たくさんの人々を救命し疾病を予防してきました。
そして現在の診療でも診察室血圧の値が絶対的な診断基準を確立しています。
それに対し家庭血圧は20〜30年と歴史は浅いものの、その幾つかの研究によって診察室血圧より優れている点もあることが明らかとなっています。
その中でも特に注目されることは、家庭血圧の方が将来起こる臓器障害や脳心血管合併症(脳卒中など)の発症を予測する能力が高いということでした。
家庭血圧を測定し始めると誰もが気づくことですが、血圧は常に変動しているものです。
毎日同じ部屋で測定したとしても、時間帯、測定回数、季節などの少しの条件の違いで、また測るたびに数値は変動します。
当然病院で測る血圧と家庭で測る血圧は同じ値にはならず、月に1度の病院の診察室という特別な環境で測定される血圧値より、日常生活の中の血圧値の方がその人の身体へ与える影響と密に関連する場合もあります。
診察室血圧と家庭血圧との間に必ずしも一定の関係性がないために、診察室血圧値から家庭血圧値を予測することはほとんど困難です。
そのためこの二つの血圧値はそれぞれが独立して評価されるべきものです。
診察室血圧が正常値で家庭血圧が高値である仮面高血圧の人は、脳卒中や心臓病の発症が3倍も多いと言われています。
病院だけで血圧を測っている人は、それが正常値であっても家庭血圧も測ることが大切です。
診察室血圧と家庭血圧、この二つの血圧はどちらも真実ですのでしっかりコントロールすることが重要です。










