春の眼科検診での視力と色覚検査
新学期を迎え、我々眼科医も学校健診のため小・中学校を訪れます。視力検査を含め、目の病気が疑われれば専門医を受診するようにと、健診の結果用紙を子供達は学校から頂いてきます。その中で特に注意しなければならないのが小学校一年生の視力検査の結果でしょう。小学校一年生にとって視力という検査は初めての経験で、そのため本来の視力より低く出ただけということもあります。
しかしこの年齢で結果が悪い場合、遠視や乱視のお子さんも多く見受けられます。そして、遠視や乱視の場合、弱視(じゃくし)や斜視(しゃし)を伴っている場合があり、この一年生の時期を逃すと後でメガネをかけたとしても視力が回復できなくなってしまうこともある、目にとってラストチャンスの時期だとも言えます。
簡単に言うと、近視は少なくとも近くを見ている時にはきちんとピントが合った画像が目に入るので弱視になることはありません。それに対し強い遠視や乱視の場合は近くも遠くもピントが合わず、常にぼやけています。いつもはっきりしない画像しか見えていないため、放置するとメガネで矯正しても視力がでない弱視になってしまったり、また、斜視を来すこともあります。
色覚検査は現在希望者のみ行われています。先天性色覚異常は男児だと、おおよそクラスに1人いる換算になります。
小学校に上がると消防車の写生を全員でしたりと色使いにも色覚異常の児童ははっきりと現れることになります。 美術以外の教科でも先生が黒板に書いた字が見づらい・学校の掲示物が読みづらいなどの不具合が出ることもあります。小学生のうちにぜひ色覚検査も受けてみることを勧めます。
健康診断で視力の結果が悪いときには放置せず、必ず専門医の精密検査を受けましょう。
お口の中をセルフチェック!
口腔癌(がん)は舌や歯肉などにできる癌で、口の中のどこにでも生じる癌です。口腔癌の罹患率は全癌の約1%を占めると考えられており、その発生率は低いものです。しかし人口の高齢化に伴い、口腔癌の患者数は増加しつつあります。口腔癌の治療は外科的切除、化学療法、放射線療法、化学放射線療法などがあり、患者さんの状態に合わせた治療法を選択していきます。初期の口腔癌ですと高い治療効果が期待できますが、病気が進行してしまうと治療後の機能障害が大きくなりQOLを低下させてしまうことがあります。
口腔癌には前癌病変という病態を経過して癌になるものがあります。前癌病変とは「正常な組織に比べて明らかに癌が発生しやすい形態的な変化を伴う組織」と定義され、臨床的に白板症と紅板症があります。白板症はこすっても剥がれない白色病変で、紅板症は燃えているような赤色斑をした病変です。白板症は3~16%、紅板症は約50%が癌化すると報告されています。白板症はその形態や生じた部位によって外科的切除となりますが、経過観察となる場合もあります。一方、紅板症の場合は外科的切除が一般的です。口腔癌の予防には、この前癌病変の段階で病気を発見することが大切です。
口の中は鏡があれば自分でも簡単に見ることができます。口腔癌の予防、早期発見のために月に1回程度のセルフチェックをお勧めします。鏡を見ながら、上下の唇の内側や歯肉→頬の粘膜→歯肉の裏側→口蓋→舌の表面、側面、裏面→口腔底など順番を決めて観察をしてみてください。白色や赤色が強くなっている部位がある、しこりがあるなど気になることがあれば、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科を受診してください。また、かかりつけ歯科医院への定期的な通院も口腔癌の予防、早期発見につながります。
目薬の正しい使い方
このような時期です、手洗いをいつもより念入りに行っていることと思いますが、点眼する前にも手をよく洗い、手指についている雑菌を除去します。
上を向き、指で下まぶたをひき開けて点眼します。薬の汚染を防ぐため、点眼容器の先がまつげやまぶた、目に触れないように注意しましょう。
点眼後約1分間、静かに目を閉じ目頭を軽く押さえます。この時、薬をいきわたらせるためと眼球を動かす必要はありません。
2種類点眼する場合は、5分以上間隔を空けましょう。
まぶたがただれるのを防ぐため、周りにこぼれた点眼液はティッシュペーパー等で取り除きます
最後にキャップをしっかり閉め、付属の保存袋に保管します。容器に記載されている使用期限はあくまで未開封の状態を指しています。開封後は約1カ月を使用期限と考えるとよいでしょう。
片頭痛
「働き方改革」が叫ばれるこの頃ですが、昔程ではないまでも「頭痛で仕事を休むなんて」というような社会的空気に負けて、頭痛を我慢している方が、まだまだ多いかもしれません。
最近は頭痛に限らず、痛みは積極的に治療する傾向にあります。痛みのメカニズムが解明されてきて、我慢した結果、痛みに敏感になることが分かってきたからです。たかが頭痛と思わずに、ぜひ、医療機関に相談して下さい。
典型的な片頭痛では、脈拍に一致した拍動性の激しい痛みと強い吐き気で、体の動きに伴って痛みが増強するという特徴があり、しばしば仕事や学校を休まざるを得なくなります。しかし、持続は長くても3日、多くの場合は一晩寝れば落ち着いてしまうため、一人で我慢していらっしゃるのではないでしょうか。非常に特徴的に聞こえる症状ですが、頭痛と吐き気という組み合わせは、くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍などの生命に危険を及ぼす病気と似ています。したがって、確定診断には検査で器質的疾患のないことの確認が必要とされています。治療には幾つもの有効な薬があります。但し、それらで片頭痛の痛みが完全に取れる訳ではありません。そこで、痛みが消えない患者さんに「痛いけど、寝込まずに仕事はできる」のような「痛みのためにできなかったことができるようになること」を治療目標にするよう勧めています。
国際疼痛学会による「痛み」の定義には、体の感覚だけでなく、心が関わるということが書かれています。「痛み」は、体に危険が迫っていることを知らせるサインと考えられますが、その原因や、迫っている危険が分からないことによる不安が「痛み」を強くします。逆に、不安が減れば、「痛み」が軽くなることもあります。片頭痛の本当の原因、メカニズムには未解決のところがたくさんあります。診断がついても、問題解決とはいきませんが、頭痛で困っている方は、一人で悩まずに医療機関に相談することで不安が減るのではないでしょうか。
気道過敏性とは…
喘息患者さんは、各々がアレルギーを引き起こす要因であるカビやハウスダスト、花粉以外の日常にあるさまざまな刺激にも敏感に反応し、咳や痰、喘鳴(ぜーぜー、ひゅーひゅーすること)などの症状を引き起こします。例えば、線香の煙や冷たく乾いた空気、塩素系の化学物質、急激な運動などが知られています。このような気管支の反応性を、気道過敏性と言います。重症な喘息患者さんほどより敏感になっていて、ちょっとした弱い刺激でも喘息発作を引き起こす事があります。「気管支が弱い」と言われるのはこうした理由からです。
気管支に炎症が起こり続けていると、より一層刺激に敏感になりますので、喘息治療においては「炎症を抑え続けること」が大切です。そのためには、症状が消失した後でも治ったと自己判断せずに、きちんと治療を続ける事が必要です。必ずしも「症状消失」イコール「炎症消失」ではないからです。気管支の炎症が治まったかどうかを、直接簡単に目で確認できればいいのですが、局所麻酔下に気管支内視鏡というカメラを使わなければ気管支の中を見る事ができず、咳や痰が出ている外来患者さんに気軽にできるものではありません。治ったと思って、薬をやめると気管支に残った炎症はいつまでたっても治まらず、くすぶった状態で留まります。これを繰り返すと、気道過敏性が増します。「以前はすぐに治ってたのに、今回はなかなか症状がよくならなくて…」と話されるのはこれが理由の一つのことがあります。
肺機能検査を行うことで現在の気管支の状態をある程度把握することはできますので、気になる方は肺機能検査をしてみるのも一つの方法ではないかと考えます。また、喫煙によっても気管支には多かれ少なかれ炎症が引き起こされます。少しでも症状を軽くし、長引かせないためにも減煙・禁煙を心がけましょう。
新型コロナウイルス対策=眼科医の立場から
世界中で感染が広がっている新型コロナウイルスですが、拡大防止には各自が感染しない・感染を広めないという意識をもって行動することが大変重要です。
ウイルスは目に見えないので本当に怖いです。誰が感染者か見えません。マスクをしていても感染者と会話をすれば数分で感染すると言われています。私達も知らぬ間に感染していても症状が出ていないだけかもしれません。ですから、マスクをする意味はうつらないためではなく、むしろ自分の身体に入り込んでしまったかもしれないウイルスを他者にうつさないためなのです。
ウイルスは、涙や鼻・口の粘膜から感染する場合もあります。指先は大変汚れているので、目や鼻は、手で触らないで下さい。
結膜炎+風邪症状が強い場合は、眼科受診をされても、流行り目との区別もつかないのが現状ですから外出を控えて下さい。
頻回の手洗いが感染予防に効果的です。食事をする会合や大人数の集会では、感染のリスクが大変高いです。不要不急の外出は控え、他者にうつさないためのマスク装用という意識も持って、行動しましょう。
大腸がん発見の新兵器
大腸がんは日本で最も多くの人がかかるがんです。死亡数では肺がん、胃がんについで第3位ですが、女性に限ると死亡数も第1位となっています[※1]。その大腸がんを発見する手段としては、便に血液が混じっていないかを調べる便 潜血検査や肛門から内視鏡を挿入する大腸内視鏡検査などがあります。大腸内視 鏡検査が最も確実な発見手段ですが、一方で検査を受ける方の身体的負担が大きく、羞恥心も働くため積極的に検査を希望する方が少ないのが実情です。
そのような中2012年に大腸CT検査が保険診療で可能となりました。この検査は、あらかじめ目印となる造影剤を混ぜた前処置食を食べてCTを撮影し、がんやポリープと紛らわしい便(目印を含んでいる)を画像処理で消去することで、より鮮明な大腸画像を構築できるようになったものです。前処置としての下剤の服用や、肛門から細いチューブを入れて炭酸ガスを注入するなどが必要ですが、それでも内視鏡検査に比べると体への負担は小さくなっています。国内での研究では直径6mm以上の大きさのがんやポリープのおよそ90%が検出できるとされており、直径1cm以上の病変に対しては内視鏡検査に匹敵する精度があるとされています[※2]。
検査をうける場合の注意点としては、この検査で異常が疑われた場合はあらためて内視鏡検査を受ける必要がある、ポリープ切除などの処置はできない、などがあげられます。この検査は現時点で保険の適用が「他の検査で大腸悪性腫瘍が疑われる患者」に限定されており、無症状の方が検診目的に保険でこの検査を受けることはできません。便潜血検査が陽性などで「要精査」判定となった場合の次の検査としての役割が期待されています。函館市内でも実施している医療機関がありますので、大腸内視鏡検査をためらっている方は検討してみるとよいでしょう。
「※1」国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計(人口動態統 計)」
[※2]第10回消化管先進画像診断研究会発表
眼底検査と散瞳
眼底(がんてい)は眼球の内部、それも表面からみて最も奥まったエリアを指す用語です。眼球は文字通りボールのような形状をしており、表面から2.5mmほど入ったところには瞳孔という名の円形の窓があります。外界の光はこの窓から奥の部屋に進入します。窓の奥の部屋はカメラの暗箱と類似していますが、眼球においては空洞ではなく光を極めて通しやすい組織(その名は硝子体(しょうしたい))で満たされています。そして、この部屋の内側にはカメラのフィルムに相当する網膜が壁紙の如く貼りついており、入ってきた光はここで電気信号に変換されて脳へ伝送されます。カメラのフィルムが暗箱の壁の中央にのみ平面状に配置されているのに対し、眼球の網膜は部屋の中央のみならず端まで眼球の曲面に沿って連続しており、視野や収差などの面で優れた光学的特性に貢献しています。
さて、網膜やその土台として重要な網膜色素上皮層には種々の病変が生じますが、それらを検出・評価するための手段のひとつが眼底検査です。眼底検査では直径2.5cmほどの眼球の内部を直径数mmの窓(瞳孔)から覗き込みますが、詳細に観察する上ではやはり覗き窓が大きい方が有利です。しかし、眼球には光が入ると自動的に虹彩が絞られ瞳孔が小さくなる性質があります(瞳孔が縮小するので縮瞳(しゅくどう))。これにより観察用の光でも縮瞳が生じ、内部の隅々までの詳細な観察に支障をきたすことがあります。このジレンマの打開策こそが瞳孔を点眼薬で強制的に拡げる方法(瞳孔が散大するので散瞳(さんどう))であり、状況や疾患によっては必要性が高くなります。
このように散瞳は眼科において重要な意味をもちますが、あいにく作用持続時間の短い散瞳薬が存在しないため、散瞳に伴う眩しさやぼやけが数時間続き自動車の運転などに支障をきたしてしまうことにご留意ください。
粉瘤(ふんりゅう)
粉瘤はニキビの大きくなったようなもので、炎症がないときは皮下にコロコロしたしこりができる皮膚の病気です。ときに細菌によって炎症が起き赤く、熱を持って腫れてきます。治療方法は小さければ、炭酸ガスレーザー、大きくなったときは切除です。
初期症状でしこりに白い内容物があり、ニキビをつぶす感覚で、自分で内容物を取り出す方がいます。このようなことを繰り返すと細菌が繁殖して大きな膿瘍(膿の塊)を形成して痛みが出現して、治療に時間がかかり、日常生活に支障をきたします。治った後も赤黒い外見上支障のある傷跡を残したりします。
もし、「粉瘤かな」と思ったら、病院を受診することをお勧めします。手術になることもありますが、薬で治めることもあります。
点眼の仕方
〇正しい点眼の仕方をご存じですか?
突然ですが、正しい点眼の仕方を知っていますか? 眼科で治療といえば「点眼」です。教わったことはないけれど、なんとなく子供のころから自分なりにやっていた、なんてことはありませんか? 目尻から流し込んだり、ぱちぱちしたり…。正しく点眼をしないと効果が減少するどころか副作用ばかりが目立ってしまうことがあります。点眼薬の種類はたくさんあり容器の形も違いますが、正しい点眼の仕方は基本的にはどの点眼薬も同じです。
〇点眼方法の実態
少し古いデータになりますが、患者を対象とした点眼の実態調査の結果を示します。
・目薬をさし過ぎている(2滴以上)…33.5%
・点眼後に「目をぱちぱちさせている」など、適切な点眼を行っていない…94.2%
・目薬が鼻やのどの方に流れて薬の味を不快に感じる…38.8%
・目薬が目から流れ出て後始末が面倒と感じている…35.9%
・目薬が目の中にうまく入らず、目の外に落ちてしまう…35.2%
・点眼容器がまぶたやまつげに接触する…41.1%
・開封後1カ月以上経過した点眼を使ったことがある…38.6%
・十分間隔をあけずに複数の目薬を点眼している…37.2%
〇正しい点眼の仕方
まぶたやまつげに触れないように1滴だけ点眼薬を目に垂らし、しばらくまぶたを閉じて目薬が鼻やのどの方に流れないように目頭を軽く押さえることが大切です。目をぱちぱちする必要はなく、まぶたに残った余分な目薬はティッシュペーパーなどで拭き取ってしまって構いません。点眼の種類によっては点眼後に目の周りを洗い流したほうがいい場合もあります。複数の目薬をさす場合は、5分以上あけてから次の目薬をさすと効果的で、間隔が短いと最初の目薬が洗い流されてしまい、効果が減少してしまいます。
点眼の仕方が気になる方は、一度、眼科医にご相談ください。










