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人に迷惑をかけないということ

脳神経外科2011/09/26

 患者さん達との会話で「子供たちに迷惑をかけたくない」というセリフをよく聞きます。
年を取り、病気になると人の手を借りる場面が多くなります。
そんな時、「迷惑をかけて申し訳ない」と思うのでしょう。プライドの問題として、心情は理解できますが、その言葉をそのまま認めてはいけないと思います。
おそらく世界中、どこの国の子供でも「人に迷惑をかけないように」と教えられると思います。
しかし、この場合の「迷惑」とは、例えばバスや電車の座席に靴のまま上がるなとか、場所をわきまえずに大声を出すなとかといった、社会生活のルールを教える言葉だと思います。
子供やお年寄り、あるいは病気やけがで困っている人に手を貸す時、「迷惑した」と思う人はいないでしょう。
子育てをするとき、女性は仕事を諦めることもあるでしょうが、それで子供に迷惑をかけられたとは思わないでしょう。
誰でも、小さい時には年長者に世話をしてもらい、自分が大きくなったら年少者や病者、弱者に手を差し伸べるというのは、自然なサイクルではないでしょうか?
助けてもらって、感謝するのは当たり前ですが、申し訳ないと思う必要はないでしょう。 将来、平均寿命が90歳代まで延びるという話があります。
その時、高齢者における認知症の割合は60%にも及ぶといいます。
独り暮らしの方も増えるでしょう。
その状況では、1人の高齢者を4、5人で支えなければならないともいわれます。
こんな将来を考えた時、年老いて体が弱って助けを借りることが、「迷惑をかける」ことだとしたら、生きることが悲しくなってしまいます。
困った人には喜んで手を貸し、弱った時には助けられて感謝する、そういうことが自然にできる世の中であってほしいと思います。 実は、認知症で大きな問題になる妄想は「人助けはするが、助けられるのは苦手な(プライドが高すぎる)人」に生じやすいといわれています。
「情けは人のためならず」と言いますが、もう一度、考えてみませんか?


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2011年9月26日 「北海道新聞夕刊」掲載)

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