乳がんについて
1995年には日本人女性の3万1174人が乳がんになっていました。
その頃、それまで日本人女性がなる第1位だった胃がんを越え、現在まで20年近くその座は揺るぎません。
2015年には8万9400人が乳がんになっています。
激増している理由としては、食生活の欧米化、出産数の低下、月経回数の増加(初経が早くなり、閉経が遅くなったため)などが考えられています。
一方、女性のがんのできる部位ごとの死亡率では乳がんは胃・大腸・肺のがんよりも低く、その予後は他のがんに比べれば一般的に良好と言われています。
しかし、乳がんの死亡率はいまだに増加傾向であり、2015年の日本人女性の乳がんによる死亡者数は1万3800人であります。
乳がん患者の死亡率を低下させるためには早期発見、早期治療が重要であることは言うまでもありません。
そして、早期発見には検診が欠かせません。
検診には、自分で見たり触ったりして行う自己検診と医療機関で行う乳がん検診があります。
乳がんは、身体の表面近くにできるため、自分で見たり触ったりすることで発見しやすい数少ないがんです。
20歳以上の女性は月1回の自己検診が勧められています。
閉経前の女性では、月経開始から数日の乳房の柔らかい時期に行うと、しこりが見つけやすいと言われています。
自己検診でしこりを見つけた人はもちろん、早期のしこりのない乳がんは自己検診で見たり触ったりしても発見が難しいため、医療機関で行う乳がん検診でマンモグラフィ検査や超音波検査を受けることが大切です。
日本乳癌学会では月に1度の自己検診と、自己検診で異常がなくても40歳以上の方は1~2年に1回の定期的な乳がん検診を受診することも推奨しています。
乳がんは20歳過ぎから認められ、30歳代ではさらに増え、40歳代から50歳代がピークです。
若い女性にとっても、乳がんは決して他人事ではありません。
乳がん検診を受けたことのない方はぜひ1度、受けたことのある方は、受けたことのない方を誘って乳がん検診を受けることをお勧めします。
水痘ワクチンの効果
2014年10月から子どもたちが待ち望んでいた水痘ワクチンの2回接種が始まりました。
水痘(みずぼうそう)は、皆さんよくご承知の通り、体に水ぶくれがたくさんできて、あとでかさぶたができる病気です。
多くのお子さんでは水疱(すいほう)からかさぶたまでで終わってしまいますが、時には水痘脳炎を発症したり、あるいは重症化して死亡に至ったり(統計上は毎年10人程度死亡しています)する実はとっても怖い病気です。
お年を召されてから発症する帯状疱疹(ほうしん)もウイルスは一緒です。
帯状疱疹は幼い時に水痘になったことが原因としてもたらされていると考えられています。
ワクチンを2回接種することにより、年齢を経た時に、帯状疱疹になるリスクが低くなると考えられます。
水痘ワクチンの定期化はこの短期間の間に函館の地にもすでに効果を表しています。
昨年度、当院で麻しん風疹ワクチン1回目を受けたお子さんの90%以上が水痘ワクチン1回目を接種しています。
その結果今年1月から6月までの水痘の流行は過去5年間の平均の4分の1までに減少しています。
流行が減少するのはとてもいいことなのですが、流行が減ればワクチンで免疫を作った子どもたちが、水痘ウイルスに知らない間に少しだけ触れて免疫が強化されることがなくなります。
結果として麻疹や風疹のようにワクチンを2回接種しなければ、子どもたちを水痘という病気から守れないということになります。
現在の水痘ワクチンの無償化は1歳から3歳の誕生日の前日までに3カ月以上の期間をあけて2回接種するというものです。
1回目は多くの方が受けていただけると思いますが、2回目を忘れないでください。
3歳以上のお子さんで水痘ワクチンを1回受けたけど、水痘にかかってもいないし、周りではやった記憶がない場合には有料になりますが、2回目の接種を受けましょう。
ワクチンで守れる病気はワクチンで予防する。病気にかかるほど怖いものはない。
こんな共通の認識が、皆さんの間に広まることを小児科医は望んでいます。
扁桃腺(へんとうせん)が大きいと言われたことないですか?
一般的に扁桃腺(扁桃)と言われているものは正式には口蓋(こうがい)扁桃といいます。
ほかに咽頭(いんとう)扁桃、舌根扁桃、耳管扁桃という扁桃があります。
その中で特に肥大を起こすものは口蓋扁桃、咽頭扁桃、舌根扁桃です。
扁桃は一定の年齢で大きくなるものです。
口蓋扁桃は7〜8歳、咽頭扁桃は6〜7歳、舌根扁桃は50〜60歳代で肥大がピークになると言われています。
では扁桃が大きいとどんな影響があるのでしょうか。
口蓋扁桃、咽頭扁桃は幼少期に肥大します。
扁桃肥大が原因となる病気としては睡眠時無呼吸があります。
いびきがひどく、無呼吸があるお子さんは扁桃肥大の可能性があります。
また、舌根扁桃の肥大はちょうどガン年齢と重なるために舌の奥の腫瘍だと思い込み、ガンではないかと不安になってしまうことがあります。
扁桃肥大があるからといって扁桃炎を起こしやすくなるということはありません。
脂肪肝から肝臓がんへ?
肝臓がんはこれまでB型・C型肝炎ウイルス感染者からの発症が約90%と大部分を占めていました。
従ってほとんどの肝臓がんはウイルス感染者を適切に経過観察していれば早期発見・早期治療が可能でした。
しかしその状況が2000年頃から変化してきており、肝炎ウイルス感染のない方の肝臓がんの発症が2倍以上に急増しています。
その中の原因で最も多いのはアルコール性肝疾患(お酒の飲み過ぎ)ですが、注目すべきは、次に多い原因がアルコールを飲まない方の脂肪性肝疾患(非アルコール性脂肪性肝疾患と総称します)だということです。
非アルコール性脂肪性肝疾患とはあまり聞き慣れない病名だと思いますが、分かりやすく言うと「脂肪肝」と、それに炎症が加わった状態の「脂肪性肝炎」を合わせたものです。
「脂肪肝」は人間ドックのエコー検査などで20%前後の方が診断される頻度の高い疾患ですので、耳にしたことのある方や実際に診断された方も多いでしょう。
肝臓がんはもう一方の「脂肪性肝炎」から発症しやすいと考えられていますが、ここで大きな問題は、現時点ではその両者の区別はエコー・CT検査や血液検査のような簡便な方法では難しく、肝生検といって肝組織の一部を採取して顕微鏡で調べるしか手段がないということです。
つまりこれは、人間ドックのエコー検査で「脂肪肝」と診断された方の中にも肝臓がんを発症するリスクのある「脂肪性肝炎」の方が混在している可能性があることを意味します。
一方で肝生検は局所麻酔をかけ体に針を刺して行う侵襲(しんしゅう)性の高い検査で、術後の出血リスクもありますので適用は慎重に考えねばなりません。
「脂肪肝」は従来良性疾患と考えられてきましたが、今後は必要に応じて「脂肪性肝炎」でないか精密検査を受け、もしそうであれば肝臓がん発症の可能性も念頭に入れた定期的なチェックを受けることがますます重要になってくると思われます。
ペットボトル症候群をご存知ですか?
ここ数日、湿度が高く暑い日が続いていますね。
こんな時、冷たい飲み物をたくさん飲みたくなります。 糖分の多い清涼飲料水を大量に飲み続けると「ペットボトル症候群(正式名称: ソフトドリンク・ケトーシス)」になることがあります。
血糖値を一定に保つホルモンのインスリンの働きが、一時的に低下してしまうことで起こる症状です。 意識がもうろうとしたり、倦怠感が続き、時には、昏睡状態に陥ることさえあります。
糖分の過剰摂取で血糖が急激に上がると、それを薄めようとしてさらに水分が欲しくて喉が渇き、尿の回数も増え、喉の渇きに任せてさらに甘い飲み物を飲む・・、という悪循環に陥ります。 一般的な清涼飲料水には、1リットル当たり100グラム前後の糖分が含まれています。
角砂糖1個が5グラムだとすると、1リットルの清涼飲料水をがぶ飲みすると、角砂糖20個をかじっているのと同じくらいに相当します。
身体にいいと思われているスポーツ飲料やフルーツ果汁の入った野菜ジュースにも糖分が含まれているため、例外ではありません。
夏場に中高生が部活動で水代わりに大量に清涼飲料水を飲んだりすることにも、十分に注意が必要です。 お茶・お水などの糖分の入っていない飲み物でこまめに水分補給をし、下痢・嘔吐後や大量に汗をかいたときなどは、スポーツ飲料を薄めて飲むこともいいでしょう。
糖尿病や糖尿病予備軍と呼ばれる人たちは、インスリンの働きが悪く、よりリスクが高まります。最近では、経口2型糖尿病治療薬としては、10年ぶりに新薬も発売され、糖尿病の治療の選択肢も増えています。 糖尿病は、早期に発見し、適切な対応や治療をすることで上手に付き合っていける病気です。
自覚症状がなくても、糖尿病の検査をしておくことが大切です。
特に、中年以降の方で急激に血糖が高くなった場合、膵がん、肝がんなどの悪性腫瘍が原因となっていることもあります。
また、2型糖尿病では、大腸がんの発生率が高いことも報告されています。
定期的な血糖の検査、そして血糖値が高いことを指摘されたときは、エコー検査やCT検査など、がんの検査もとても重要となります。
成長期のスポーツ障害について
成長期、特に10〜15歳位までの数年間は骨格や筋肉の発達の目覚ましい時期です。
この時期の子供の骨には「骨端線」という部分があり、主として軟骨細胞で構成されています。
「骨端線」は関節の近くにあり骨の成長を担っています。
構造的に弱い為に、スポーツによる障害を受けやすく、その結果、機能障害を残してしまうこともあります。
それではスポーツ障害の中で頻度の高いものを分かり易く説明していきます。
少年野球における「野球肘」はスポーツ障害の代表的なものと言えます。
「野球肘」には上腕骨小頭の壊死を生じる「外側型」と、上腕骨内上顆の骨端線離開を生じる「内側型」があります。
両型とも投球時の肘関節痛が初期の症状です。
進行すると肘関節の屈曲、伸展が制限され後遺症として関節の変形を残すこともあります。
最悪の場合、手術が必要となる場合もあります。
障害を残さない為には早期診断が大切で、治療の遅れは選手生命を損なう可能性もあります。
ランニングやジャンプを伴うスポーツでは「オスグット病」という膝関節の下部にある頸骨粗面の骨端線が腫れて痛みを生じます。
特にサッカー選手に多いようです。
急性期には安静が必要ですが、軽傷例では専用サポーターを使用し、経過をみていきます。
成長期の腰痛の原因の一つに、「腰椎分離症」があります。
腰椎後方の椎間関節の一部に疲労骨折が起こり、分離症に進行すると言われています。
特にバレーボール、バスケットボール、柔道の選手に多く見られます。
分離症の腰痛は後屈時に強くなることが大きな特徴です。
放置されると分離部の骨癒合は困難になるので、早期の診断、特にCT検査が必要です。
以上、「成長期のスポーツ障害」の早期診断の為には、まず周囲の大人が症状に気付いてあげる事が大切で、そこから治療の第一歩が始まると言っても過言ではありません。
ワクチンで子供を守ろう
子供は病気にかかりながら大きくなるものです。
でも、ワクチンは、子供の命を危険にさらすことがあるものが選ばれて作られています。
ワクチンで防げる病気があるのに、お金がかかるからとか、かかった方が免疫がつくからという親の考えは、子供にとってはとても悲しいことです。
昨年、東京を中心に風疹の大流行がありました。
その結果、悲しいことに先天性風疹症候群という障害を持ったお子さんが40名強生まれました。
今年はまた、海外で流行した麻疹が東京などに持ち込まれ現在も流行中です。
麻疹の流行の主体は20歳以上です。
20歳以下は麻疹風疹混合ワクチンの2回接種を行った年齢ですが、今一度母子健康手帳を確認して、していない人は自費で接種を受けましょう。
年長児で行う麻疹風疹混合ワクチンの2回目の接種は、できるだけ早期に終了するようにしましょう。
年長児のワクチンは無料で行うことができます。
今年10月から、水痘ワクチンの2回接種が制度化されます。
接種の詳しい方法はまだ決まってはいませんが、対象は1歳児と2歳児となるほか、3歳児、4歳児も来年3月末までの期間限定で接種が行われる予定ですので、広報を見落とさないようにしてください。
日本脳炎はコガタアカイエカが豚から媒介する病気で、かかると約20%の人が死亡し、50%の人に後遺症が残る重篤な病気です。
北海道では、日本脳炎ウイルスを持った豚がいないとされ、発症者がいまだ出ていないということで日本で唯一ワクチンの免除地域になっています。
しかし、現実には北海道で飼育されている豚からウイルス感染による抗体が検出されており、いつ発症者が出てもおかしくない状態が15年以上続いています。
現在は自費接種しかできませんが、ぜひ接種をお考えください。
B型肝炎ワクチンは世界で初めての癌予防ワクチンです。
世界的にはあまねく人に接種するユニバーサルワクチンとして位置づけられておりますが、日本ではまだ任意接種扱いです。
子供たちにワクチンを! 小児科医からのお願いです。
メタボリックシンドロームについて
2005年4月に内科系8学会でメタボリックシンドロームの診断基準が作成されました。
腹囲〈リラックスした状態で、お臍(へそ)のある位置から水平にメジャーをまわして測ります〉が男性では85cm以上、女性では90cm以上を必須項目として、血清脂質(中性脂肪が150mg/dl以上かHDLコレステロールが40mg/dl未満)、血圧(収縮期血圧が130mmHg以上か、拡張期血圧が85mmHg以上またはその両方)、血糖値(空腹時血糖値が110mg/dl以上)の3項目の内2項目があるとメタボリックシンドロームと診断され、将来、動脈硬化を起こし、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞になる可能性が高くなります。
また、メタボリックシンドロームは内臓脂肪症候群とも言われています。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて蓄積されやすく、エネルギーを消費することで解消されやすいという特徴があります。このことから、体を動かして内臓脂肪を使ってしまうことがメタボリックシンドロームを解消する良い方法です。
さらに、食べ過ぎや飲み過ぎなど、食生活の改善にも気をつけることが必要です。
検査をしても異常がない病気?!機能性胃腸症という病気
みなさんは、日常の生活の中で胃腸の痛みや不調を感じることはありませんか?
あるデータによると、慢性的な胃の不調を訴える患者の半数からは、胃カメラやバリウム検査で胃炎や胃潰瘍(かいよう)、がんなどの粘膜の外見的な異常(器質的疾患)は見られなかったそうです。症状が続いているのに、「神経性胃炎」や「気のせい」「異常なし」と言われ、かえって不安やストレスが増し、悪化する例も少なくありません。
器質的な異常がなくても、実際に胃腸の運動機能が低下していることにより、胃腸の不調が現れることを「機能性胃腸症」といいます。
原因は、疲れやストレスなどによる消化管の運動不良で、症状は、のどのつかえ感、胸痛、胸焼け、胃もたれ、胃痛、腹痛、食欲不振、腹部膨満感などです。
しかし、これらの症状は、がんや胆石、胃炎・胃潰瘍、過敏性腸症候群、逆流性食道炎の症状と似ているため、超音波検査や胃カメラ・大腸カメラでこれらの病気が無いことを確認しておくことが大切です。
治療は、まずはストレスの改善と規則正しい食生活です。過労・睡眠不足、食べ過ぎ・飲み過ぎ・早食いを避けること、また脂っこいものや甘いものを控え、胃を休めるように心がけることも大切です。また、症状に応じて胃腸の働きを促す薬、時には安定剤が必要なこともあります。
症状や原因には個人差もありますが、まずはきちんと検査を受け、他の様々な病気を除外しておくことが必要です。以前は苦痛を伴っていた胃カメラや大腸カメラも、カメラの進歩により苦痛はかなり軽減しているため怖がらなくて大丈夫です。また、たとえ検査で異常がなくても、不調が続く時には、単なる思い過ごしとあきらめずに、専門医に相談してみましょう。
病気について丁寧な説明を受け、仕事や家庭での悩みを聞いてもらうだけでも安心して症状が緩和されることもありますよ。
軽度認知障害
何らかの認知機能の低下はあっても、日常生活には特に支障がない、あるいは自立ができているという状態を「軽度認知障害」と言います。認知機能には、注意力、物事をうまく進める能力、学習と記憶、言葉の能力、目で見て認識したり、それと作業を組み合わせたりする能力、他の人の感情の変化に気付く能力があります。認知機能が軽度に低下すると、次のような事が起こる可能性があります。
今まで簡単にできていたことをするのに時間がかかるようになったり、間違いが多くなったりします。異なる作業を並行してすることが難しくなったり、会話の変化について行くためにより多くの努力が必要なって、疲れ易くなることもあります。最近の出来事を思い出すのに苦労し、メモやカレンダーに頼ることが多くなるかも知れません。映画や小説の登場人物を覚えておくためにそのつど手がかりが必要になったりします。言葉が出にくくなったり、微妙な文法の誤りが生じたりすることもあります。
新しい場所にたどり着くために以前よりも多く他人に尋ねたり、集中していないと道に迷ったりすることもあるでしょう。大工仕事、縫い物、編み物などの空間作業に大きな努力を必要とするようになります。顔の表情を読んだりする能力の減少、外向性または内向性の増加、節度の低下、微妙なあるいは一時的な無感情、または落ち着きのなさなどのために、性格が変わったように見えることもあります。
軽度認知障害は認知症に進む場合と、あまり進行しない場合があります。MRIなどの頭部画像や心理検査であまりはっきりとした所見が得られませんが、脳シンチという検査で脳の特定の部位における血流の低下が見られることがあり、このような場合には認知症へ進行する可能性が高いと考えられます。
対応としては、認知症の薬を服用する、半年~1年くらい経過を観る、などの場合があります。









