その胃の不快感は単なる食べすぎですか?
暴飲暴食や運動不足となりやすい年末年始でしたが、胃の不快感が続いていませんか?
食後の胃もたれ、胃の不快感、腹部の膨満感は、日ごろから気になっている方も多いのではないでしょうか。一般的には、これらは慢性胃炎の症状です。
日本人の大半が患っているといわれている慢性胃炎と胃ガンには深い関係があります。なかには、胃ガンになりやすいタイプの胃炎があります。聞き慣れない言葉ですが、それが「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」です。
これは、長期間にわたって、胃の粘膜が繰り返し傷つけられることにより、細胞の修復に異常が起こって、胃の粘膜に腸の細胞が発生してしまうのです。
原因は様々ですが、主に「ストレス」「塩分の摂りすぎ」「飲酒」そして「ピロリ菌」といわれています。腸上皮化生があると必ず胃ガンになるわけではありませんが、腸上皮化生は、胃に慢性的な炎症が起きている証拠なので、他の胃炎に比べ、胃ガンになるリスクが高くなってしまうのです。ピロリ菌は、胃の粘膜に住みつく細菌で、40歳以上の日本人のほぼ8割の人が感染しているといわれており、胃カメラ以外でも呼気検査や血液検査で簡単にチェックすることができます。
塩分を控えた食生活を心がけることやストレスを改善させることはもちろんですが、ピロリ菌を除菌することで腸上皮化生を含めた慢性胃炎が改善され、胃ガンのリスクも低くなると考えられています。しかし、現在保険が適用されているピロリ菌の除菌は、胃潰瘍(かいよう)か十二指腸潰瘍や潰瘍瘢痕(はんこん=潰瘍の痕跡)の診断がついている場合だけですので、気になる方は、消化器内科の専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
腸上皮化生の診断は、胃のバリウム検査ではわからないので、胃カメラの検査が必要になります。最近では、以前のイメージとは異なり、胃カメラはかなり細いタイプに改良されており、また鎮静剤等を併用するとずいぶん楽に検査を受けられるようになりました。
40歳を過ぎたなら、胃カメラの検査を受けておくことが、胃ガンの予防、早期発見につながるのです。
検査をしても異常がない病気?!機能性胃腸症という病気
みなさんは、日常の生活の中で胃腸の痛みや不調を感じることはありませんか?
あるデータによると、慢性的な胃の不調を訴える患者の半数からは、胃カメラやバリウム検査で胃炎や胃潰瘍(かいよう)、がんなどの粘膜の外見的な異常(器質的疾患)は見られなかったそうです。症状が続いているのに、「神経性胃炎」や「気のせい」「異常なし」と言われ、かえって不安やストレスが増し、悪化する例も少なくありません。
器質的な異常がなくても、実際に胃腸の運動機能が低下していることにより、胃腸の不調が現れることを「機能性胃腸症」といいます。
原因は、疲れやストレスなどによる消化管の運動不良で、症状は、のどのつかえ感、胸痛、胸焼け、胃もたれ、胃痛、腹痛、食欲不振、腹部膨満感などです。
しかし、これらの症状は、がんや胆石、胃炎・胃潰瘍、過敏性腸症候群、逆流性食道炎の症状と似ているため、超音波検査や胃カメラ・大腸カメラでこれらの病気が無いことを確認しておくことが大切です。
治療は、まずはストレスの改善と規則正しい食生活です。過労・睡眠不足、食べ過ぎ・飲み過ぎ・早食いを避けること、また脂っこいものや甘いものを控え、胃を休めるように心がけることも大切です。また、症状に応じて胃腸の働きを促す薬、時には安定剤が必要なこともあります。
症状や原因には個人差もありますが、まずはきちんと検査を受け、他の様々な病気を除外しておくことが必要です。以前は苦痛を伴っていた胃カメラや大腸カメラも、カメラの進歩により苦痛はかなり軽減しているため怖がらなくて大丈夫です。また、たとえ検査で異常がなくても、不調が続く時には、単なる思い過ごしとあきらめずに、専門医に相談してみましょう。
病気について丁寧な説明を受け、仕事や家庭での悩みを聞いてもらうだけでも安心して症状が緩和されることもありますよ。
ストレスによる下痢・便秘
ストレスによって引き起こされる腸の病気に、「過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)」があります。「過敏性腸症候群」とは、大腸や小腸に潰瘍や癌などの原因となる異常が見つからないのに、便通異常(下痢や便秘)や腹痛、腹部膨満感が続く、又はおならが頻繁に出る等の症状が起こる病気です。
比較的まじめで几帳面な方が多く、職場や家庭での人間関係のストレス、転居や転職による環境の変化、過労や暴飲暴食などが引き金になって症状が現れます。このようなストレスが副交感神経を刺激し、腸の運動が過度に高まって、激しい腹痛や下痢が繰り返し起こるようになるのです。
便通異常の現れ方によって、三つの病型に分けられます。
(1) |
便秘型―腹痛があり、便意があっても便が出にくく、ウサギの糞(ふん)のようなコロコロ便が出ます。 |
(2) |
下痢型―緊張やストレスで、すぐにトイレに行きたくなり、軟便や水様性の下痢になります。下痢は長期間にわたり、重症の人ではいつどこで便意を催すかわかりません。逆にリラックスしているときは正常の便に戻ることも多いタイプです。 |
(3) |
下痢・便秘交替型―腹痛・腹部不快感があり、下痢が続いた後、便秘が続くという状態を繰り返します。 |
治療は、まず、生活習慣の改善とストレスのコントロールが大切です。規則的な食生活や適度な運動や趣味でストレスを発散し、飲酒や喫煙は控えましょう。薬は、整腸剤や腸機能改善薬、または抗不安薬や抗うつ薬を用いることもあります。しかし、この病気は、長期間続き、完全には治りづらい病気です。生活を改善しながら、あせらずに治療を続け、上手に病気と付き合っていくことを心がけてください。
ただし、下痢や便秘の症状が続く時には、過敏性腸症候群以外にも、ポリープや大腸憩室炎、潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病、痔なども考えられます。また、大腸がんの可能性も高く、十分注意が必要です。腹痛や便通異常が続く時には、大腸カメラなどの検査が必要です。最近では、機械や技術の進歩により、大腸カメラの苦痛も軽減され、検査時間も十五分~二十分程度です。
おなかの症状が気になるときには、恥ずかしがらずに、まず消化器専門医を受診しましょう。
ピロリ菌をやっつけろ!
胃潰瘍(かいよう)・十二指腸潰瘍の原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌が発見され、二〇〇〇年十一月より、ピロリ菌の除菌治療が行われてきました。多くの患者さんが、この治療の恩恵を受け、潰瘍の再発・再燃から解放されました。
しかし、残念なことに二〇%前後の患者さんには効果はありませんでした。原因は、ピロリ菌を除去する抗生物質が効かない、いわゆる耐性菌の出現でした。
日本ヘリコバクター学会では「ヘリコバクター・ピロリ感染が胃癌(がん)を含む様々な疾患の発症に深く関与していることが明らかになってきており、本邦においてヘリコバクター・ピロリ除菌療法の徹底を図り、ヘリコバクター・ピロリ感染を撲滅していくことは、胃癌をはじめとする消化管難治性疾患の発症予防に極めて重要かつ重大なことである」と位置づけ、ピロリ菌を撲滅させる研究がなされていました。その結果、新たな治療が今年の八月に承認され、現在加療できるようになりました。これを「二次除菌治療」と呼んでいます。
以前の治療(一次除菌)が不成功だった方に、この二次除菌を行い、八十五~九十%前後の方々が除菌に成功しています。治療は、一次除菌薬剤のクラリスロマイシンを、メトロニダゾールという薬剤に一種類変更しただけです。
ただし、この二次除菌を行う方は、新たな耐性菌の出現を避けるために一次除菌が不成功だった方のみ限定となります。主な副作用は、一次除菌のときとほぼ同様で下痢・軟便です。また、気をつけなければいけないのは、二次除菌の薬は酒と相性が悪く、除菌治療期間の一週間は禁酒が必要になります。
これからの季節は、忘年会・新年会があると思いますので、二次除菌治療を希望の方は、急がず正月が明けてからじっくりと治療に取り組んではいかがでしょうか?
たかが便秘、されど便秘!
便秘とは、3日以上排便がなくお腹が張ってつらくなる状態です。たとえ毎日排便がなくても、バナナ状の形の便が気持ちよく出ていて残便感がなければ心配いりません。便秘が続くと、お腹が張るばかりではなく肌荒れ、口臭、イライラや肩こり、不眠まで引き起こすこともあります。
1日3食、特に朝食はきちんと摂りましょう。朝、胃に食べ物が入ると腸が刺激されて動き出します。朝起きがけに、コップ1杯のお水を飲むことも腸を刺激してくれます。もちろん野菜や果物をたっぷり摂ることも大切です。また、適量の油の摂取も、腸での潤滑油となり便を出しやすくしてくれます。トイレは我慢せず、朝食後にトイレに行く習慣をつけましょう。そして適度な運動を心がけ、睡眠はたっぷりとってストレスをためないようにしましょう。
生活習慣と食事を改善しても便秘が解消しない時、軟らかい細い便しか出ない時、下痢が続く時、便に血が混じる時、それは腸炎、あるいは、ひそかに大腸がんが進行していることもあります。自己判断で下剤を常用する前に、消化器専門医にご相談下さい。
胃食道逆流症について
食生活をはじめとする生活様式の欧米化により、近年日本人の胃食道逆流症増加しています。
名前の通り、胃液が、食道からのどにかけて逆流するために様々な症状を引き起こします。一般的には、胸焼け・すっぱい水があがる・ご飯が詰まる感じがするなど。変った症状では、のどの違和感・不快感、声のかれ、慢性の咳、胸痛なども起こることがあります。この病気は、症状はあっても胃カメラでは異常がない方が30~40%程度いるという困った疾患です(以前は、胃カメラで異常がないため、神経症と誤診されていたケースもあります)。症状と胃カメラの所見が合わないケースでは、24時間pHモニタリングという検査を行うのが一番よいとされています。
しかし、この検査は、鼻から細いコードを飲み込み、その状態で24時間過ごしてもらう検査のため、通常行う検査としては不向きです。このため、胃カメラで所見がなく、この疾患を疑う場合、治療と診断をかねて、PPIテストを行います。これは、プロトンポンプインヒビター(頭文字をとってPPI)といわれる胃酸の分泌を抑える薬を服用するだけです(新薬ではなく、胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療に用いられています)。薬は、1日1回の服用で済み、副作用もほとんどありません。胃食道逆流症の場合、内服後症状は改善し、中止後再発することが多いことで診断がつきます。このPPIテストの注意点は、胃カメラで病状を確認することです。つまり、胃カメラで他の病気がなく、PPIが効果ある場合に初めて胃食道逆流症と診断がつきます。そうしなければ、同じ症状でも、食道ガン・胃ガン・胃潰瘍等の疾患を見逃してしまいます。
最近では、胃カメラも細くなり、また、以前つらい思いをした方には、鎮静剤を用いた方法でリラックスして検査を行うことが可能です。これらの症状に思い当たる方は、消化器専門医への受診をおすすめします。
胃潰瘍にはヘリコバクターピロリ菌を!
今回は4月に厚生労働省の研究班によって作成された胃潰瘍診療のガイドラインについてお話しします。
このガイドラインは多数の論文を検討して得られた結果をもとに、胃潰瘍に対する最 も理にかなった治療の手順を示したものです。このガイドラインの大きな特徴はヘリ コバクターピロリ(以下HP)の除菌療法(抗生物質を2種類とプロトンポンプ阻害剤 という胃酸の分泌を抑える薬の計3種類を1週間内服する)を治療の柱として位置づ けていることです。HPは胃の中に住むことのできる唯一の細菌で、胃潰瘍の重要な原 因のひとつとされ、これまでは、特に潰瘍の再発の予防という観点から、通常の治療 に加えて行われ、その効果が評価されてきました。
しかしこのガイドラインではHP陽性の胃潰瘍患者に対してはHPの除菌療法が第一選択 となっており、除菌療法のみで治癒が可能としています。ということは例えば「胃の あたりががまんできないほど痛くて、検査したら大きな胃潰瘍があった、HPを調べた ら陽性だった、除菌療法をした、その後症状は改善しそれ以後も潰瘍は再発しなかっ た」というような経過が標準的ということになります。使った薬は除菌療法の1週間 分だけなので、非常に効率の良い治療経過です。
HP陰性の場合については次の機会にお話しするとして、HP除菌が今のご時世の「医療 費抑制」に十分貢献できるであろうことは容易に想像できますが、これにはやや不安 を感じる専門医も多いと思われます。除菌療法自体にも下痢その他の副作用があり、 潰瘍の急性期で痛みの強い時期にも除菌療法のみというのは問題があるように思われ るのです。あくまでも除菌療法を主体とする事に異論はありませんが、症状や全身状 態をみながら柔軟に対処したいものです。
最後に、この除菌療法に際し不可欠なことは、まず内視鏡検査(胃バリウムでもよ い)によって胃潰瘍を確実に診断し、あわせてHPをチェックすることです。当院では 鎮静剤を用いて苦痛のないように内視鏡検査を行い、胃潰瘍が認められた場合には、 尿素呼吸法という最も確実なHPチェック法を行い、陽性の場合はほぼ全例に除菌療法 を行っています。
検査で異常はないけれど
「胃腸の調子が悪く病院で検査を受けたけれどなんでもないと言われた。しかしまだ調子が悪い」今回はこういった症状に関するお話です。
従来このような症状は神経性胃炎、消化不良、胃腸虚弱などとして片付けられていましたが、その実態が追求されることはほとんどありませんでした。胃腸の検査は早くからバリウムや内視鏡などの臓器の色や形を観る検査が発達し、癌(がん)や潰瘍(かいよう)などの重大な病気はそれで対処できていたため、これらの検査で異常がない場合の症状はあまり注目されなかったのかもしれません。最近、胃腸内部の色や形といった従来の検査でわかる異常ばかりでなく、胃腸の働き、特に蠕動(ぜんどう)運動がうまく行われていないことによって胃腸症状が起こる場合も多くあるのではないかと言われ始めています。胃の場合は機能性胃症、大腸では過敏性腸症候群などが代表的な病名です。蠕動運動を的確に検査できる方法は今のところありませんので症状からこれらを診断することになりますが、胃腸機能異常を疑ったとしてもバリウムや内視鏡検査を行い、癌や潰瘍などの重大な病気がないことを確認することは欠かせません。
胃腸機能異常の原因がすべて解明されているわけではありませんが、ストレスや生活リズムの乱れが関係していると言われています。胃腸の動きは神経で調節されています。この神経は間接的に脳ともつながっていますので、心の状態が胃腸に影響を与えても不思議はありません。実際にストレスが胃潰瘍に悪影響を及ぼすことは有名ですし、今でも精神科領域の薬が胃潰瘍の薬として認可されています。治療を考えても、ストレスや生活リズムの乱れを正すことが基本になります。
しかし、「言うは易く行うは難し」、多くの人にとっては仕事上の制約などで「それが出来れば苦労しないよ」というのが本音でしょう。そんな時は機能異常に対応した薬の助けを借りるのもひとつの方法です。
薬で必ず症状が改善すると言い切ることはできませんが、思い当たる場合はかかりつけ医師に相談してみてはいかがでしょうか。
便秘と下剤のお話
ここで取り上げる便秘
今まで毎日トイレでスッキリしていたけれど急に排便が困難になったとういう場合は大腸癌やポリープなどの本物の病気が原因である可能性があるので、ここでのお話の対象外です。そういう方には大腸検査をお勧めします。また便秘と同じくらい下痢をするという人は多分、過敏性腸症候群といわれる状態ですのでこれもお話の対象外です。そうではなくて「何年も便秘が続いている」といったいわゆる慢性便秘がこの話の本題です。便秘とは?
さて、何日便が出なければ便秘と言うのでしょうか?これについて万人に受け入れられる答えは無いと言って良いでしょう。5日間排便が無くても自分が便秘だと思っていない人もいれば、毎日排便がなければ便秘だと思う人もいます。教科書にも「○日排便がなければ便秘である。」といった明確な線引きはありません。教科書的には便が出ないことによって何らかの症状がある状態が便秘であるとされています。 その症状とは、
- 便が出てもスッキリしない
- 便が出ないで何日かするとお腹が張ってくる。
- さらにおなかが痛くなる。
- かなり息まないと排便できない。
などです。
こういった症状があるときは治したほうが気分が良くなる便秘と言えます。
便秘の原因
多々ある患者さん向けの本やホームページでの便秘の解説では「便秘は○○性便秘、△△性便秘、...があり...」といった便秘分類からそれぞれ××性便秘の原因を説明していますが、細に入りすぎるので触れません(つまらない話ですし)。ここではもっとアバウトに多くの人に共通すると思われる便秘の原因をお話します。原因を除去するのが治療の基本ですから・・・。原因1.朝食をとらないこと
朝起きて朝食をとることが刺激になって腸が活発に動き始め、それが便意につながります。この働きは三食の中で朝食後が最も活発なのです。朝食をとらなければ腸の動きが鈍いままで便意が出難く、トイレに行こうとも思わないでしょう。原因2.便意を我慢すること
朝便をしないで、仕事先や学校に着いてからトイレに行きたくなっても我慢しなければならない事もあります。我慢していればそのうち便意もなくなってしまいます。原因3.そして悪循環
便意を我慢し続ければ腸が鈍感になっていきます。多少便が貯まっても便意が起きない、でも便意が出たときは我慢しなければならないのではますます腸が鈍感になっていきます。そして便秘の症状が出現します。
このストーリーがすべての便秘人に該当するわけではありません。「朝食をキチンと食べているけど便秘だ。」とか「便を我慢することは無いけど便秘だ。」という人はもちろんいるでしょう。でも肝心なのは排便の習慣がついていないこと-すなわち便秘-が便秘の原因になるということです。つまり、「便秘は悪循環する」ということが重要なのです。いよいよ治療
原因がわかれば原因を除去することが治療となります。排便習慣をつけ悪循環を断ち切るということですね。朝食を食べていない人は便秘の薬だと思って朝食を食べることです。そして食べたら30分以内にとりあえずトイレに座る(あるいはしゃがむ)。でもいくらトイレで座っていても便意が出なければどうしようもありませんね。そこでいよいよ下剤の登場です。最初は薬の助けを借りてとりあえず毎日出しましょう。-望ましい下剤とは?その1-
自然な状態では腸(とくに肛門のすぐそばの直腸)に便が貯まっているという信号が排便刺激になります。便秘の悪循環ではこの信号が弱くなっているのですからこの信号を鍛えるのが理想的な治療となります。便が貯まったという刺激を与えるのに手っ取り早いのは便を増やすことですね。便を増やすにはたくさん食べればいい。でもたくさん食べたら太ってしまいます。ダイエットを心がけている人にはとんでもないことでしょう。そこで栄養とならず便だけ増やす下剤が登場します。この種の下剤は機械的下剤と正式には呼ばれていますがイメージしにくいので、ここでは便増下剤と名付けておきます(ここだけの用語です。一般には通用しません)。便増下剤は便に含まれる水分を多くします。すると便量が増えます。さらに水分を含んで便が柔らかくなることによって直腸に便を到達させやすくします。よくある下剤
ここで注意しなければならないことがあります。残念ながら薬局で勧められたり、病院で処方される下剤の多く(コー○ックなど)は刺激性下剤といって便が貯まっていなくても無理やり腸に刺激を与えて動かす薬です。便増下剤ではありません。寝る前に飲むだけで翌日には排便できる手軽な薬ですが、これでは「便が貯まったよ」という直腸からの信号は弱いままですし、連用することによって更に腸が鈍感になる-結腸無力症-になる場合があります。また、人によっては大腸への刺激が強すぎてお腹が痛くなったりします(だから下剤は飲みたくないんだという人いませんか?)。病院で処方される刺激性下剤で代表的なもの(他にもまだまだあります)
- アローゼン
- センナ
- プルゼニド
- センノサイド
- チネラック
- ラキソベロン
- テレミンソフト
- プルノサイド
-望ましい下剤とは?その2-
これに対して便増下剤は1日3回の服用が基本です。それから便の状態をみて服用量、服用回数の調節をしなければなりませんから刺激性下剤に比べれば手軽とは言えません。また当然ですが排便刺激も刺激性下剤に比べれば弱いので「効いている」という実感も少ないでしょう。でも排便刺激は自然な経路ですから必要以上に腸を刺激することはありませんのでお腹が痛くなることはありません(実際に私の診察している便増下剤服用患者さんには腹痛があるという人はいません)。便増下剤は何種類かあり病医院で処方できます。薬局で購入できるかどうかはわかりません。私も一応内科医なので薬局で薬を買うことはまずありませんから。
毎日便が出たら
便の状態をみて服用量、服用回数を減らしていきます。薬の種類を変える場合もあります。急にではなくて半年から一年かけて薬とバイバイするつもりでゆっくりとです。そうして排便習慣が回復すれば便秘も解消します(たぶん)。
最後に
ここまでのお話は便秘の治療の理想です。私は刺激性下剤はなるべく処方しないようにしているのですが便秘は個人差が大きいので刺激性下剤でなければ対処できない患者さんもいることは白状しておきます。数行前の(たぶん)も正直言えばみんながこの方法で便秘を解消できるわけではないという意味です。刺激性下剤を使わなくてもよい人まで刺激性下剤を使っている現状を多く目にしますので
「面倒ですが試しにでも便を増やす下剤を服用してみてはいかがでしょうか?そのほうが自然な排便に近づけますよ。」
との提案がこのお話の目的なのでした。
※注:この文章は「便秘と下剤」についてわかりやすく解説することを目的としています。一般的に正確性と平易性は相反しますのでこの文章にも厳密とは言えない部分があるかもしれません。
女性の便秘と薬
ここでお話するのは、「もう何年も便秘だ」とか「検査をしても異常はないのに便秘だ」というような女性に多い慢性便秘の話です。便秘の解消も生活習慣の改善が基本ですからその点にも触れたいところですが、便秘薬の誤った使用が目につきますので、ここでは便秘の薬にお話を絞ります。慢性便秘の原因は年齢によって異なるので便秘薬も当然使い分けられるのが望ましいのです。高齢者では腸の力が弱くなり排便できなくなる弛緩性便秘が多く、現在汎用される下剤が適切である場合が多いのでここで改めてお話しすることはありません。
これに対して若年から中年世代の便秘は腸の緊張が適度に強く、うまく肛門の方向へ便を送ることができないけいれん性便秘と直腸(肛門のすぐそばの大腸)に便がたまっても直腸の感覚が鈍感なために便意として感じられない直腸性便秘が大部分です。
これらの便秘に一般の下剤を用いるのは勧められません。一般市販薬の約9割、また病院で処方される下剤の多くは大腸刺激性下剤と言って化学的な刺激を大腸に与えて排便を促す薬だからです(漢方も例外ではありません)。
この下剤を内服すると けいれん便秘ではさらに大腸の緊張が強くなりますし直腸性便秘ではさらに直腸の感覚が麻痺してしまいます。
それでも腹痛を起こすので長くトイレに座ることになり、なんとか排便できるのですが、連用することによって薬の効きが悪くなり、やがて大量の下剤を使わないと排便できない状態になることがあります。
最近ではこれらの便秘を過敏性腸症候群(検査をしても原因となる異常が見つからない腹部症状を伴う便通異常)ととらえ一般の下剤ではなく過敏性腸症候群の薬で治療する方法もあります。この種の薬は飲んで翌日排便できる通常の下剤とは異なり、効果発現に時間がかかるなど根気強い治療が必要ですが、治療を望む方はお近くの消化器医に相談されてはいかがでしょうか?