緑内障について
緑内障とは、視神経が障害され視野(正面を向いて前方を見つめた時に上下左右の見える範囲)が狭くなったり、部分的に見えなくなる目の病気をいいます。眼球に一定の張りを与えて形を保つ圧力のことを眼圧(がんあつ)といいますが、房水(ぼうすい)という眼内の水分がこの役割を担っています。
房水は、毛様体(もうようたい)というところから生産され、目の中を循環しながら組織に栄養を与え、最終的には隅角(ぐうかく=房水の出口)を経て血管に流れ出ていきます。この流れがスムーズである限り、眼圧は一定に保たれています。ところが、房水が排出される隅角が目詰まりを起こすと、目の中の房水が多くなりすぎて目がパンパンに張ってしまいます。これが、眼圧が高い状態です。
急激に眼圧が上がると視神経はすぐに傷つきます。また、眼圧がそれ程高くなくても、上昇している期間が長ければ徐々に傷ついていきます。眼圧の正常範囲は10~21mmHgとされていますが、視神経がどのくらいの眼圧に耐えられるかは個人差によります。
実際、眼圧が正常なのに緑内障をわずらっている人が緑内障全体の半数以上を占めています。ですから、眼圧が正常でも決して安心はできません。多くの緑内障は、初期の段階では自覚症状はほとんどありません。実際、視野障害が起きていても視線を動かすなどして無意識に両方の目で補い合って物を見ているため、自分では視野障害に気付かないことが多いのです。また、視力は末期まで良好に保たれるため、視力を測っても緑内障が発見されないこともあります。
現在、日本では四十歳以上の十七人に一人が緑内障に罹患(りかん)しており、自覚症状がないために緑内障患者さんの約九〇%が治療を受けていないといわれています。
早期発見、早期治療のため、何も症状がなくても、一度は眼科検診を受けることをお勧めします。
屈折矯正手術よもやま話
「近視や乱視を治したい(遠視もですが・・・)!」
そんな皆様のご希望を可能にしたのがレーシック(LASIK)であり、その発展型がウェーブフロント(wave-front guided LASIK)です。以前、当コラムに掲載させていただいた時には、まだ噂の手術・トピックスの域を脱していなかったこの術式も、今や市民権を得て、広く深く皆様に浸透されたのではないかと思います。
ただし、LASIKは角膜を削る手術のため、角膜の厚さが薄い、または、強度の近視、などの理由から適応外となり、コンタクトレンズや眼鏡のみで対応せざるを得ない場合もあります。
これらをカバーする手術は無いのでしょうか?
答えは、「有ります(残念ながら、全ての方が適応となる訳ではないのですが・・・)」。
近年登場した方法がこれにあたります。例えば、LASIKで行う角膜のフラップをより薄く作る事ができる(1)エピレーシック(epi-LASIK)という方法では、今まで不可能であった角膜厚の薄い症例も手術が可能となります。薬品を用いてフラップを作る(2)ラセック(LASEK)や、現行の(3)ピーアールケー(PRK)も同様な効果が得られます。また、(4)有水晶体眼内レンズ(Phakic IOL)という眼内に埋め込むレンズも登場しました。この方法は角膜を削る事がないため、極端に薄い角膜の方や強度の近視の方も手術を受ける事が可能になりました。
医学の進歩は目を見張るものがあり、屈折矯正手術も同様です。これからも、より良い治療方法が登場する事でしょう。では、現時点で最も優れた手術方法はなんでしょうか?
私見ですが、やはり「レーシック(LASIK)」と言えるでしょう。これに、「エピレーシック」や「有水晶体眼内レンズ」などの方法を個々の症例に合わせて行う事で、今まで以上の適応の拡大と安全性の向上が得られるのです。
これから手術を希望される方は勿論のこと、今までに適応外とされた方や、二の足を踏んでいた方も、改めてご相談されてみてはいかがでしょうか。
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)の新しい治療
高齢化や生活様式の欧米化などに伴ってわが国でも増えつつある、加齢黄斑変性と言う病気をご存知ですか?
物を見るために重要なフィルムの役割をしている網膜の中心部を黄斑と言います。加齢黄斑変性とは老化に伴いこの黄斑部に老廃物が溜まり、炎症や出血を誘発し視野の中心が歪んだり欠けてみえたりする病気です。黄斑変性には遺伝性のものもありますが、大部分がこの老化に伴う加齢黄斑変性と言われています。殊(こと)に脈絡膜に新生血管が発生し出血することにより網膜が障害される滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性は、進行が速く急激に視力低下を来(きた)します。
この疾患に対し以前より様々な治療が行われてきましたが、近年この疾患で社会的失明に至る高齢者も少なくなく、今まで以上に適応範囲が広く効果的な治療が切望されていると言えるのではないでしょうか。
そのような中、現在最も注目を集めている治療方法があります。それは光線力学療法(PDT)です。では、どのような治療方法なのでしょうか?
PDTとは光に反応しやすい物質(光感受性物質[こうかんじゅせいぶっしつ])をあらかじめ組織や血管内に取り込ませた上で、その光感受性物質に特定のレーザー光を照射する事によってその物質を活性化させ血管を閉塞(へいそく)または組織を障害する方法の事で、既に肺・食道・膀胱(ぼうこう)・皮膚など、多様な疾患に用いられております。
具体的にはベルテボルフィンという光感受性物質を投与後十五分の時点で、レーザーを新生血管に八十三秒間照射するものです。このようにする事で他の組織に障害を与える事なく、脈絡膜新生血管のみを特異的に潰す事が出来るため、先に述べた進行の速い浸出型に有効な治療方法と期待されています。以前このコーナーで取り上げた抗酸化ビタミン・ミネラルやカロテノイドの一種であるルテインなどの抗酸化サプリメントやPDTといった効果的な治療法が次々と施行され、今や加齢黄斑変性は治療可能な疾患に変貌しつつあると思われます。
ドライアイ
最近、外来では目の乾燥を訴える方を多く見かけます。これはドライアイ(乾性角結膜炎)から来る症状です。
黒目(角膜)や白目(結膜)は常に涙の膜で保護されております。涙は外からのばい菌をやっつけたり、黒目への栄養を運ぶ働きがあります。ドライアイとは、その涙の量が少なかったり、涙そのものの働きが悪くなるために目の表面に傷が出来てしまう病気で、女性に多いといわれています。
原因は、加齢性変化はもとより、シェーグレン症候群【自己免疫疾患(膠原病)の一つで、主に唾液腺や涙腺などの外分泌腺が慢性炎症をおこす病気。その結果、主として外分泌腺の機能の低下をもたらす】に代表されるような全身疾患の一症状としてドライアイを呈する場合もあります。精神安定剤やその他の薬によって涙の量が減る事や、中には原因の分からない場合もあります。それに近年、パソコンやTVゲームの普及に伴い目を酷使するため同様の症状を訴えるケースも増えております。
症状は先に述べた目の乾きはもちろん、ゴロゴロしたり(異物感があったり)、熱く感じたり、充血、かゆみ、目の痛み、目の疲れやまぶしく感じたりと様々です。また夕方になると充血がひどくなったり冬場の暖房などにより悪化する傾向があります。
治療は人口涙液や角膜保護剤などの点眼を用いるのが一般的です。症状のひどい方には特殊なプラグや外科的処置で涙の排水口である涙点を閉鎖するなどの処置が必要な場合もあります。また、暖房の使用時には室内を充分に加湿したり、夏場でもエアコンの付近を避けるなどの予防策も効果があります。とにかく目を乾燥させない様心掛ける事が大切です。
北海道は他の地域より乾燥しやすいため外での作業をしたときなど、一年中たえず症状を訴える方も少なくありません。前述のような症状が気になる方は一度眼科での精密検査を受けてみられてはいかがでしょうか?
屈折矯正手術、最近の話題
皆さんの中には今より少しでも見えるようになりたいと考えている方が多いと思います。特に、現在メガネやコンタクトレンズを使用している方は、なおさらでしょう。
それを可能にしたのがレーザー屈折矯正手術、いわゆるレーシック(LASIK)です。レーシックについては以前にこのコーナーでも取り上げられたと思いますが、エキシマレーザーを用いて近視をはじめ遠視や乱視を矯正する手術の事です。実際、この手術を受けたほとんどの方が1.0前後の裸眼視力を得ており臨床的に満足できる方法といえます。ただ、まったく問題がないわけではありません。これは何故でしょうか?
実は、視力とは涙液層(涙の膜)・角膜・水晶体・網膜といった眼球全体が関与しているため、一般に言われている近視・遠視や乱視だけではなく、一人一人違った眼球全体からみた歪み(収差)・光の量を調節する瞳の大きさ(回折力)・物を見るための細胞の数(視細胞密度)のバランスが保たれている必要があります。これに対し、レーシックに限らずメガネやコンタクトレンズを含めた今までの屈折矯正は角膜表面のみで考えられており、また収差による影響によって、にじむ感じや夜間視機能の問題が起きるといわれています。したがって、この収差をも消すことができれば、より安定した視力が得られる訳です。
その方法がウェーブフロントです。この方法は、従来のレーシックに加えて波面センサーという個々の症例の収差を解析できる装置を用いて、より精密に個々にあった照射(カスタム照射)を行うものです。そうすることによって従来の術式では不可能であった
(1)不正乱視の治療
(2)にじむ感じや夜間の視力低下などの改善
(3)理論的には無収差に矯正できるため裸眼視力2.0以上のいわゆるスーパービジョンも可能になると考えられています。
メガネやコンタクトレンズで不満のある方は、一度眼科医にご相談してみてはいかがでしょうか?
視野の真ん中がぼやける、ゆがむ、暗くみえませんか
物を見る中心部がぼやけて、暗く感じる(中心暗点―ちゅうしんあんてん)、ゆがんで見える(変視症―へんししょう)という症状を自覚される場合、網膜の中心部、黄斑(おうはん)の病気が考えられます。
黄斑とは網膜(カメラに例えるとフィルムに当たる所)の中心にあり、物を見るために大切な部分です。その黄斑に異常をきたす代表的な病気を挙げます。
中心性網膜炎
眼底の中心部黄斑が丸く腫れる病気で、ストレスが多くかかる中年男性によくみられます。治療はストレスからの解放、睡眠をしっかり取ることが第一です。また、内服療法や早く治すためにレーザー治療を行います。ほとんどは半年くらいで治癒(ちゆ)しますが再発することもあります。心身の過労を避けることが大切です。
黄斑上膜
年齢の変化で黄斑の上に膜がはる病気です。中心部に膜がはると収縮し黄斑にしわがより、症状を自覚します。治療は視力低下やゆがみがないときは経過観察となりますが症状が強いときには手術の適応になります。
加齢黄斑変性症
アメリカで中途失明の原因の一位で、黄斑に異常な加齢変化がおこり症状がでる病気です。唯一の危険因子に喫煙があります。大きく二つのタイプがあり、萎縮型は病気の進行は緩やかで高度の視力障害はおこらないため積極的な治療はしません。一方、滲出型(しんしゅつがた)は脈絡膜(みゃくらくまく)から病的な新しい血管(新生血管―しんせいけっかん)が発生し、網膜のほうに進行します。治療は決定的な方法はありませんが新生血管をレーザーで閉塞させる光線力学療法、栄養血管をつぶすレーザー光凝固や黄斑下に出血を伴うときには手術を行うこともあります。
以上のほかにもいろいろな病気があります。目の治療で大切なのは早期発見、早期治療です。自分で少しでも異常を感じたら眼科専門医の診察をうけてください。
近視のレーザー手術
最近、テレビや雑誌などの特集で目にする機会も多くなりましたが、数年前、タイガー・ウッズやブラッド・ピット、日本の芸能人なども受けて話題になった屈折矯正手術(近視のレーザー手術)について今回お話しいたします。
エキシマレーザーを用いて角膜を削るというレーザー手術は、大きく分けて2種類の方法があります。一つはPRKと呼ばれるもので、角膜表面の角膜上皮をレーザーで蒸発させた後、近視の度数に合わせてレーザーを照射する方法です。もう一つはレーシック(LASIK)という方法で、PRKの欠点である手術後の痛みや、視力回復に数日かかってしまう点を改善するために考えられた方法です。レーシックはケラトームという器具を用いて知覚神経のある角膜上皮に影響を与えないようにフラップを作り、その下の角膜実質にレーザーを照射します。そのため手術後の痛みがほとんど無く、視力の回復も早く、当院でも手術翌日に1.0前後の視力が得られる方が多いようです。
気になる費用ですが、残念ながら自由診療のため健康保険の適用が認められておらず、全額自費となってしまいます。医療機関によっても違いますが、函館では片眼10万円~15万円位で受けることが出来ます。
対象は、一般に20歳前後から50歳代ぐらいの近視をはじめ遠視や乱視の方も適用となります。但し、術前に眼科専門医による精密検査を行い、適用となる条件を満たして初めて手術となります。興味のある方は、手術をできるかどうか検査をしてから考える事をお勧めいたします。
視力の悪い人であれば、一度は眼鏡・コンタクトレンズのわずらわしさから開放されたいと夢見たことありますね。その夢をかなえてみませんか?
メタボリックシンドロームと目
最近メタボリックシンドロームという言葉をよく聞くようになりました。太っている人のことを「メタボだね」と略する言い方が定着していますが、では、メタボって何でしょうか?
肥満症や高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、それぞれが独立した別の病気ではなく、肥満―特に内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満といいます)―が原因であることがわかってきました。
このように、内臓脂肪型肥満によって、さまざまな病気が引き起こされやすくなった状態を『メタボリックシンドローム』といい、何でも横文字にするのは日本人の悪い癖ですが、簡単に訳すとメタボリック【新陳代謝】、シンドローム【症候群(=病気の集まり)】という意味です。
これらの病体は目にも色々な病気を引き起こします。特に眼底に出血を来して、目がかすんで視力が低下してしまうことが多いのです。
例えば、高血圧では眼底に出血や白斑(はくはん=白いしみ)、視神経の浮腫(ふしゅ=腫れ)を起こす高血圧網膜症(こうけつあつもうまくしょう)を来します。
高脂血症は眼底の動脈硬化を来すため、隣りを走っている静脈を圧迫して血がしみ出してしまう病気、網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)を起こすこともあります。
この病気になると、ある日突然視力が低下して、目の前の半分くらいが暗くぼやけるようになってしまいます。
一番怖いのは糖尿病でしょう。
糖尿病でもやはり出血や白斑を来しますが、目の中間部に出血する硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)を起こして突然見えなくなったり、網膜の上にクモの巣のような膜が張ってくると網膜剥離(もうまくはくり)を起こしたりして放っておくと失明することもある状態にまでなることがあります。
内科の先生の所に行く前に、目がかすむと最初に眼科にお見えになる例も多々あります。
そういう場合、すぐに内科と連携を取って治療しなければなりません。
風に当たると涙が出てきます
空気が冷たくなる冬場や風が強くなる春先になると、外出時に涙が増えるという方が多くなります。
涙は涙腺(るいせん)から出てきて目を潤すと、目頭にある涙点(るいてん)から鼻涙管(びるいかん)を通って鼻の穴に捨てられます。そのどこかが狭くなると涙目になってしまいます。また、白目の表面の結膜(けつまく)がたるんでくると涙点を抑えて涙目になったり涙がくっつくので不快感が出てきます。
治療法としてはまず涙の量を減らす点眼薬を使ったり、風が目に当たらないようなカバーの付いた保護眼鏡をかけてみます。
涙点や鼻涙管が狭い場合には切って広げたり、シリコンチューブを入れて狭くなっているところを広げる手術をします。
白内障の方は目がぼやけるのを涙のせいに感じる場合もあります。
10秒間目を開けていられますか
二・三回まばたきをした後、十秒間じっと目を開けたままにしてみましょう。もし、途中でつらくなってまばたきをしてしまった方は、< ドライアイ=乾き目>かもしれません。
今度は次の12項目のチェックシートに当てはまるものをチェックしてみてください。
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目が疲れやすい |
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ものがかすんで見える |
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目がゴロゴロする |
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なんとなく目に不快感がある |
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目が乾いた感じがする |
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光をまぶしく感じやすい |
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目が痛い |
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目やにが出る |
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理由もなく涙が出る |
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目がかゆい |
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目が重たい感じがする |
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目が赤くなりやすい |
五つ以上チェックが付いた方は、ドライアイの可能性が高くなります。
涙は通常まぶたの中にある涙腺と言うところで作られ、一日に出る涙の量は二~三ミリリットルとスプーン一杯程度です。ドライアイにはこの涙の出る量が減るタイプ< 1>と、涙はきちんと出ているのに質が悪くて蒸発しやすいタイプ< 2>があります。
涙の量を計るには、まぶたの縁に検査用の濾紙や糸をつけて吸収される量を計る< シルマーテスト>をしますが、日常分泌される涙の量を量る方法と鼻の粘膜を刺激してどれくらいいっぱい分泌されるかを計る方法もあります。タイプ< 1>の方には涙だけではなく唾液も出ない< ドライマウス>を合併している場合もあり< シェーグレン症候群>と言います。
涙の蒸発しやすさを検査するには、検査薬をつけてから目を開けてもらい、涙が蒸発し出すまでの秒数を数える< BUT>検査をして、十秒間以内に蒸発しだすかどうかをチェックします。
治療としては、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸という様な保湿成分の高い成分の点眼薬、涙が鼻に捨てられるのを防ぐため鼻涙管(びるいかん)の入り口の< 涙点(るいてん)>に栓をする方法、涙が蒸発するのを防ぐためにフチと加湿器の付いた眼鏡< モイスチャーチェンバー>をかける方法等がありますが、タイプ< 2>の方は涙が蒸発しだす前にこまめにまばたきをする癖をつけるというのも一つの方法です。