熱さましの使い方
インフルエンザが流行すると、高熱で子どもたちが苦しみます。アセトアミノフェンの座薬は、インフルエンザ流行期でも小児に使ってよいとされています。
では、どんな時なら使っていいのでしょう。
熱を下げることは、病気と闘って熱を出すことを妨げるので、使わないで済めばそれに越したことはありません。でも、熱でグッタリ感が強いお子さんは、熱を下げて水分の補給や食事ができると、病気と戦う元気が盛り返してきます。
最初にすることは、水分補給や、わきの下などの冷却、着ているものやお布団などの掛け物の調節です。それでもだめなら、座薬を使うようにしましょう。
高熱が続いても、子どもの脳に重大な影響が出るのは本当に稀(まれ)なことです。
子どもの夏風邪
今年はインフルエンザが大流行しました。
インフルエンザウイルスは低温、乾燥で流行しますが夏風邪ウイルスは高温、多湿で流行します。夏風邪ウイルスの代表はアデノ、エンテロ、コクサッキー等のウイルスです。咽頭結膜熱(プールを介して感染し流行することもあるので「プール熱」とも呼ばれます)、感染性腸炎、手足口病等の原因になります。いずれも感染力が強いので体調管理が大切です。特に身体が冷えると、気道粘膜の繊毛(せんもう)上皮の働きが悪くなり、その場所からウイルスが体の中に進入し熱が出ます。
暑い時期の高熱は脱水になりやすいので、脇の下や首周りを保冷剤などで冷やしてあげると良いでしょう。高熱が数日続きますが解熱剤は善し悪しですので、治療は主治医とご相談ください。
雨に濡れたり、夜、肌寒い頃に出歩いたりするのは、風邪の引き金になりますので、花火大会などに出かけるときは、上着を一枚もって出かけるのがいいでしょう。
おねしょの治療
「おねしょ」というと、ほろ苦い思い出をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。6歳を過ぎても失敗を続けている子を夜尿症(やにょうしょう・通称:おねしょ)として投薬や生活指導を行い、治療する傾向が多くなりました。簡単な問診と尿検査、普段の1日の飲水量や尿量等を参考にして診断します。夜尿が徐々に少なくなってきている場合は生活指導だけで良くなる場合もあります。
夜尿症の原因はいくつかありますが、ほとんどは夜間の尿量が多いタイプです。治療を開始すると、 約7割の子供たちが半年前後で薬を中止できます。このように長期にわたる治療や生活指導(水分制限等)が必要であること、再発の問題や薬の副作用の問題などもありますので、治療の際は、必ず専門医の診断を受けるようにしましょう。
インフルエンザの流行
ここ数年冬になると必ずインフルエンザの話題がメディアを賑わすようになります。インフルエンザがいわゆる冬の一般的な風邪とは違い、お年寄りや、小さい子供さんたちの命を奪う可能性のある恐ろしい感染症の一つだからです。
インフルエンザの流行は、低温、乾燥の条件が揃えばあっという間です。風邪の潜伏期(ウイルスに感染してから発病までの期間)はだいたい2~4日程ですが、インフルエンザの場合早ければ翌日には発症します。職場やクラスの中に一人感染者がでれば翌日には数人の方が発症している可能性があります。このようにして感染が非常に早く広がるので、大流行につながりやすいのです。
この大流行をどのように予防したら良いでしょうか。一般的には予防接種が良いとされています。一人より集団で、子供さんだけではなく、家族全員で接種した方がより効果的です。毎年流行のピークは2月です。予防接種の効果は接種後約1ヶ月前後より出てきますので遅くても11月下旬には1回目の接種を行うようにしてください。
インフルエンザになってしまったらどうしたらいいでしょうか?発熱から48時間以内に抗インフルエンザ薬を医療機関で処方してもらってください。効果のある方は1日から数日で解熱します。しかし内服を始めても数日間高熱が続くことがあります。また、抗インフルエンザ薬は副作用として腹痛や下痢、嘔吐等の症状を示すことがあります。このような場合は直ちに医療機関に相談された方がいいでしょう。今年は例年より早くインフルエンザの流行の兆しが見えています。困ったことに抗インフルエンザ薬の在庫が底をつきつつあり、製薬会社は海外からの緊急輸入を行っていますが、次回の調達がいつになるかわからないという状況です。しかし、抗インフルエンザ薬がなくても他にインフルエンザに効果のある治療法がありますので、医療機関に相談してみてください。
インフルエンザの流行や最新情報はインターネットで検索すればほとんどの情報は手に入ります。上手に情報を利用してインフルエンザに打ち勝ってください。
おりものシートは必要か?
最近診療をしていて気になるのが、おりものシートや月経用のナプキンにかぶれて、かゆみを訴え受診する患者さんが増えていることです。接触によるかぶれは、あてている時間が長くなると症状が出やすくなるため、原因は「おりものシート」だろうと推測しています。
月経量が少なくなった日に数日使用する程度ならあまり問題ないのでしょうが、最近は「おりものが下着に付くと嫌だからいつもシートを使う」という女性が増えています。
健康な女性は女性ホルモンの影響で膣の中をきれいに保つために、ある程度のおりものはあるのが普通です。
きれいなおりものは健康な証拠ですので心配ありません。ただし性経験のある女性は、雑菌や性感染症、子宮癌(がん)などでおりものが増える可能性もあるので、心配な時は婦人科で診察を受けて下さい。
子宮頚癌(しきゅうけいがん)
先日癌検診の受診率が下がっているとの記事が、新聞に載っていました。実際に子宮頚癌もその罹患(りかん)率、死亡数が、最近上昇傾向にあります。
子宮頚癌の最大の特徴は、予防可能な癌であるということです。異形成「子宮癌になる前の病変」の状態で見つけることができるためで、定期的に子宮癌検診を受けることで、異形性の段階で発見して、癌の発症を未然に防ぐことができるからです。
また最近、性器に感染する、ヒトパピローマウイルスが子宮頚癌の発生に深く関与していることが、わかってきています。 ヒトパピローマウイルス感染は最も頻度の高い性感染で、20歳前後の女性の40~60%が感染しているといわれています。性器感染を起こすパピローマウイルスには40程度の型があり、尖圭(せんけい)コンジローマや若年性喉頭乳頭腫の原因となる、ローリスクタイプと子宮頚癌に関連するハイリスクタイプがあります。
このウイルスによる性器感染は、ほとんどが自然に消失し、ごく一部のハイリスクタイプが感染を持続し癌を発症します。
欧米では従来の子宮癌検診にパピローマウイルスの検査を組み合わせておこなっています。どんな検査でも100%完全なものはなく、異常細胞の見落としはどうしてもおきます。この見落としをパピローマウイルス検査と組み合わせることで減らすことができます。同じような異型細胞が見つかっても、ウイルスが陽性であれば、陰性のヒトよりも悪性に進行するヒトが約20倍にもなることが分かってきています。
2006年6月に米国でワクチンが認可されました。このことにより子宮頚癌を予防することが現実となってきました。
米国のある州では11~12歳の少女全員にワクチンを接種。オーストラリアでは11歳から26歳の全少女、女性に無料で接種することが決まりました。
日本ではパピローマウイルス検査はまだ保険適応になっていません。またワクチンも認可されていません。
早く適応され、認可されればと思いますが、それでも定期的な癌検診を受けることで自分自身を守ることはできます。20代後半以上の女性はぜひ検診を受けて下さい。
妊娠中の浮腫(むくみ)
妊婦さんに聞かれる事で多いのが「浮腫(むくみ)がでてきたのですが・・・」という質問です。むくみは妊婦さんの六十%から七十%にみられます。半数以上にみられる症状は、異常ではなく生理的現象であるというのが現在の考え方です。
妊娠時には母体のホルモン環境が変化し、そのホルモンが血管や腎臓に働いて正常妊娠でも1000ccから1500ccの水分を体内に貯留します。このように水分が増えることは血液中の水分も増え、胎児により多くの血液を送る流れをよくし、胎児を成長、発育させます。妊娠後期には血液がたくさん必要になるので血液中の水分、血漿(けっしょう)量が更にふえてきます。その水分が血管壁よりしみ出てきて皮下組織にたまった状態が浮腫です。ヒトは立っていることが多いので膝から下にでてきます。
以前はむくみが出てくると「大変だ、中毒症がひどくなる」といって、利尿剤(余分な水分をおしっこにして出す薬)をのんでもらいましたが、いまは血液中の水分もおっしこにすることで、血液が濃縮し、流れが悪くなり血圧があがりやすくなるので使いません。
浮腫は母子にどのような影響を及ぼすのでしょう。
調査結果では、浮腫のある妊婦の方が無い妊婦より体重の重い児(こ)を出産する。浮腫のある妊婦は低体重児を出産する率が低い。浮腫のある妊婦の方が無い妊婦より出産前後の死亡が少ない。妊娠中の体重増加が多いほど浮腫がでやすい。子癇(しかん)をおこした妊婦の約半数に浮腫が無い。浮腫のある妊婦に体重制限をしても、しなくても妊娠高血圧症候群の発症頻度に差が無い―などの傾向がみられます。
これらの事から、浮腫のみでは児に悪影響を及ぼすことは無く、妊娠時の浮腫は病気ではないと考えられ、妊娠中毒症(平成17年4月より妊娠高血圧症候群と変わりました)から浮腫は除外されました。
妊娠中の体重増加は、胎児への栄養補給、分娩、授乳のための栄養の蓄積です。正常妊娠の体重増加の内訳は、胎児3kg。胎盤、羊水など1.5kg。脂肪の蓄積3kg。タンパク質の蓄積1.5kg。水1.5kgで合計10.5kgとなりますので日本人の場合、体重増加は10kgから11kgが適当です。
標準体重を「やせ・普通・肥満」にわけると、妊娠前の体重が、やせた方は9~12kgの増加。普通の方は、7~12kgの増加が一般的です。肥満の方は、個別に対応する例が多くなっております。
婦人科の出血
婦人科を受診する方の三分の一は出血を訴えて来院します。出血のトラブルは新生児から老年にいたるすべての女性に起きることです。出血のトラブルには、月経の異常と不正出血があります。
月経とは一定の周期をもって反復する子宮内膜よりの出血であり、二十五~三十八日の周期で三~七日持続する。と定義されています。
月経の異常として―
(1)初めての月経が十歳前に来る早発月経。十五歳以後に来る遅発月経。特に十八歳になっても来ないものを、原発性無月経といいます。甲状腺の異常。副腎の異常。卵巣のホルモン産生腫瘍。性器の奇形を疑います。
(2)周期の異常では二十四日以内で来る頻発月経。三十九日以上九十日以内で来る希発月経。
(3)量の異常として少ない過少月経。多すぎる過多月経。
(4)持続日数が二日以内の過短月経。八日以上続く過長月経―などがあります。
基礎体温をつける。カレンダーに月経の始まった日、終わった日、量が「多かった、少なかった」痛み等をつけるようにしておくと診断の助けになります。
不正出血とは生理的な出血「月経、分娩、産褥(さんじょく)」以外の病的な出血をいいます。
(1)器質的原因によるもの。すなわち頸管ポリープ。子宮膣部ビラン。内膜ポリープ。慢性内膜炎。炎症性疾患。子宮ガン。子宮筋腫。卵巣、卵管の腫瘍。出血性素因によるもの。外傷性のもの―等による出血。
(2)妊娠に伴う出血。切迫流産。進行流産。子宮外妊娠。胞状奇胎。早産。前置胎盤。弛緩(しかん)出血など。
(3)機能性出血。子宮出血のうち、月経、妊娠、器質的疾患によると考えられるものを除いたものをいいます。
どの年代にも、また、無排卵性、排卵性いずれの場合でも起こります。ホルモンの乱れによる内膜の増殖、萎縮、不規則な内膜の剥脱(はくだつ)などが原因です。
いずれの場合も、数カ月前からの月経がいつあったか、状態はどうだったか、月経以外の出血はいつあったのか、量などをメモして婦人科を受診してください。
十代の女性へ
最近、函館市では十代の人工妊娠中絶が多い。北海道の十代の女性の性感染症が他県に比べて多い、という記事がありました。
日常の診療でも十代の女性の妊娠、性感染症の患者さんを診る事が増えてきているようです。
思春期には二次性徴が出現し、性の成熟が進み、異性への関心が高まり、接近欲求、性行動へとすすみます。雑誌、TV、インターネット等からの性情報の氾濫(はんらん)のなかで、十代の性に対する意識も大きく変わってきているようです。
性行動に至る理由も、「愛しているから」「好きだから」というのと同じくらいの割合で、「好奇心で」「遊びで」「ただ何となくということで」とアンケートに答えています。妊娠、性感染症の知識も不十分なようです。
婦人科医がここで言えることは、性行動には必ず妊娠と性感染症がつきものだということです。
望まぬ妊娠のために、人生設計を変えなければならなくなったり、性感染症のために妊娠できなくなったり、と相手の体や心を傷つけることのないように。正しい知識を身につけてください。
性感染症には、症状のすぐ現れる淋病、トリコモナス膣炎等と、症状が現れるまでに数カ月から十年もかかるもの、クラミジア頚管炎(けいかんえん)、エイズ等があります。何も症状が無いからと安心できません。予防法は簡単です。コンドームです。日本では決まった相手を持つ方のほうが、多数のパートナーを相手にしている人よりコンドームの使用率が高いという諸外国と正反対のアンケート結果があります。これでは性感染症が増えて当然かもしれません。
妊娠は月経が二十八日周期であれば、月経開始日より十四日目に妊娠。十日目より十五日目が危険日といわれていますが、十代の女性では周期が一定ではなく、遅れがちだったりすると、いつが危険でいつが安全なのかわかりづらく、常に避妊することが大事です。
最後に「コンドームが破れた」「レイプされた」時の緊急避妊としてモーニングアフターピルというものがあります。七十二時間以内に服用すれば高確率で妊娠を防ぐ事ができます。
婦人科医に相談してください。
『おりもの』の話
最近、おりものが多い。臭いがする。外陰部がかゆい、痛い。と訴えて来られる方が増えています。また一方で、診察しておりものが多いなあと思っても、全然気にしない方もいらっしゃいます。おりものの感じ方は、個人差が多いようです。おりものとは、外陰、膣、子宮頚管、子宮腔、卵管などからの分泌物、浸出液をいいます。
増える原因により、生理的おりものと病的おりものにわけられます。生理的おりものの原因には、ホルモンによるもの、排卵、妊娠、卵胞ホルモン製剤の投与、子宮膣部びらん、萎縮性膣炎(閉経による卵胞ホルモンの減少による)などがあり、病的おりものには、炎症性のものと、腫瘍性のものがあります。炎症によるものは、性感染症=トリコモナス症、尖圭コンジローマ、淋病、クラミジア感染症、性器ヘルペス、など。性感染症以外の炎症によるものとして、細菌性膣炎、カンジダ症、頚管炎、子宮内膜炎、卵管炎、バルトリン線炎、などが原因となります。
腫瘍性のものには、子宮頚癌、子宮体癌、外陰癌、など悪性腫瘍、頚管ポリープ、子宮筋腫があります。規則的に月経がきている成熟期の女性では、膣は主に卵胞ホルモンの働きで、酸性に保たれて、細菌の増殖を抑えています。これを膣の自浄作用といいます。小児期や、閉経期以後には、卵胞ホルモンの分泌が不十分なため、膣の自浄作用は低下しており、膣炎を起こしやすくなっています。成熟期の女性では、慢性の頚管炎などによる粘液の増量、精液、月経血、過度の膣洗浄などで自浄作用が低下します。おりものが多いときに、生理的なものか、病的なものかを判断するには、色は白い、膿のように黄色い、透明で水のよう、血液が混じる、臭う、他には、かゆい、痛い、下腹痛、腰痛がある、などを聞いて検査をすすめます。
小児期のおりものの異常の多くは、外陰、膣の炎症に伴っておき、外陰の不潔、下着の刺激、外傷、膣内異物などが原因となります。更年期から閉経期老年期の女性に起きるおりものの異常は、ほとんどが卵胞ホルモンの分泌低下による性器の萎縮性変化によるものですが、子宮頚癌、子宮体癌によることもあり検査が必要です。