医療被曝(ひばく)について
先日、日本では診断用X線によってガンが3・2%増える可能性があるという論文が発表され、様々なメディアで報道されました。要するに、被曝するとガンが増える。これは広島、長崎、チェルノブイリなどからも明らかで、日本ではX線やCTスキャンでの検査数が世界でも飛び抜けて多いので、ガンが増えるでしょう、ということのようです。我が国ではメディア報道に過剰な反応をすることがしばしばあるので、もし患者さんが治療方針決定に必要なX線検査にまで同意してもらえなかったらどうしよう、と思っていましたが、特にそのようなことはありませんでした。
放射線の影響には、ある線量以上照射されなければ起きないもの(確定的影響と言い、皮膚炎、不妊、白内障などがあります)と、照射される線量に比例して発生確率が増すもの(確率的影響と言い、放射線誘発ガンがあります)があり、確定的影響についてはわかっていて、最も軽い初期紅斑(皮膚がほんのり紅くなること)でも胸のレントゲン写真で連続六千回以上、CTでも連続百回以上とらなければ起こりません(おそらく機械が先に壊れるでしょう)。最初にあげた論文は確率的影響について研究されたもので、それについては残念ながら詳細はわかっていません。しかし、皆さんが受けられるX線検査は病気の早期発見と適切な治療のために必要なもので、例えば1センチの肺ガンはX線検査でなければ発見不可能で、打診聴診触診ではまずわかりません。このように被曝というリスクを払っても治療のために得られる利益が多いという判断のもとに検査は行われているのです。ですが、いくら利益が勝るからといって、被曝線量軽減への努力は怠ってはならず、医療機関のみならず医療機器メーカーも一体となって、質を落とさず線量を落とす工夫をしています。
皆さん、どうぞ主治医の先生を信じて今後もX線検査を受けていただきたいと思います。
口腔インプラントの安全・安心を目指して
2012年、公益社団法人日本口腔インプラント学会から「口腔インプラント治療指針」が発表されました。
これは、内閣府から出された「日本21世紀ビジョン」において、国民生活の最大の願いとして「安全・安心」が取り上げられたことにより、同学会がまとめたものです。 内容は多岐にわたり専門的なことが多く書かれておりますが、ここでは、患者さんが受けるべき説明事項について列記させて頂き、実際に説明を受ける時の参考にしてほしいと思います。
①インプラントと入れ歯、ブリッジなど他の治療法との比較や利点、欠点
②インプラント残存率(他の治療法との比較)
③期間
④費用
⑤麻酔法、痛みや手術後の状態
⑥治療の方法やそれに伴う骨移植、軟組織移植などの前処置の有無や侵襲
⑦経過不良のリスクや合併症
⑧経過不良の場合のリカバリー法
⑨回復後の状態
⑩メンテナンスについて
上記のような説明の努力はしていますが、医師と患者さんとのコミュニケーションが良好なことが、安心した治療を受けられる要因の一つでもあります。
何か不明な点や疑問点などがあれば医師やスタッフに聞いて頂き、安心した治療を受けることをお勧めいたします。
また、「口腔インプラント治療指針」は同学会ホームページ上で誰でも見ることができるので、興味のある方は一度検索してみて下さい。
加齢性白内障だけでは、失明しません!
水晶体が白く濁る白内障になると、視力が低下してきます。
先天性白内障(風疹など)・外傷性白内障・糖尿病白内障・アトピー白内障・併発白内障(ぶどう膜炎など)・その他(放射線やステロイド薬剤)などいろいろな原因で白内障になりますが、最も多いのは加齢によるものであり、60歳を過ぎると少しずつ加齢性白内障が出てくるようになります。
症状は
①かすんで見える
②まぶしくなる
③暗くなると見えにくい
④二重・三重に見える
⑤老眼鏡なしで近くが見えやすくなる、などです。
水晶体には神経や血管がないので、痛みや充血はおきません。
加齢性白内障は病気ではなく、初期は進行予防の点眼薬で様子をみて、症状が強くなったら手術をして視力を取り戻すことができます。
加齢性白内障ですぐに失明はしないので安心して眼科を受診して下さい。
ただし、進み過ぎてからでは手術ができなくなることもあるので、定期的に眼科で進行度合いを検査することをお勧めします。
目から始めるアンチエイジング
最近よく耳にするアンチエイジングとは、抗加齢医学のことです。
不調になってからではなく早めに予防していつまでも若々しく元気でいたいものです。
日本の失明原因トップ5の中でも緑内障・加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)・白内障は加齢によるものです。
老視(=老眼)は、30代後半からはじまる人もいますが、長い間、視力検査をしていないために気づかず、眼痛・頭痛・疲れ目・肩こりなどで苦しんでから初めて受診する方が多いようです。
また、目のまわりの皮膚や筋肉のたるみによる眼瞼下垂(がんけんかすい)・涙の量と質のバランスがくずれて起きるドライアイや流涙症(なみだ目)も加齢によるものが多いのです。
眼科分野では、欧米で治療効果が認められたサプリメントによる老化防止が最近注目されています。
疲れ目、白内障や加齢黄斑変性に効果のあるものなどがあり、今までの治療に加えて取り入れれば、目のアンチエイジングに役立つことでしょう。
認知症の方との付き合い方
認知症の家族への接し方をよく聞かれます。
明快なお答えが出来ませんが、認知症の人が特別なのではないと考えるよう勧めています。
たとえば、徘徊と聞くと、やみくもに歩き回る姿を思い浮かべがちです。
ご本人が言葉で説明できないことも多いのですが、出かけた後をつけて行くと、その目的が分かることがあります。
また、「徘徊」しているところを警察に保護された時、その発見場所にヒントがあることもあります。
かつての職場を目指していたり、子供時代を過ごした、今はない実家を探していることがあります。
認知症では、過去から切り離され、未来への見通しもつかない全くの暗闇の中、足元を照らす光だけが残っている状態です。
「今」がとても不安なために、安心できた過去に戻ろうとして家を飛び出すことも多いといわれます。
ただ、途中で道が分からなくなり、「徘徊」という姿になってしまいます。
排泄に失敗したとき、「私はやっていない」と言い張り、汚れた下着を箪笥の奥に隠し、介護者を驚かせます。
これらは「身内に格好悪いところを見られたくない」という、誰にでもある当たり前の気持ちから出たと考えられます。
一見、理解しがたい行動も、よく観察すると理由があることが分かります。
また、患者さん自身が語った言葉に対して、「ゆっくり話してください」、「何を話したかより、どのように話したかということが大事です」というのがあります。
患者さんは、早口で幾つもの事柄を話されると付いていけません。
同じ言葉でも、喋り方、声の調子、顔の表情などで受ける印象が変わります。
この聞いた時の気持ちは記憶に残るようです。
したがって叱るような話し方ばかりしていると、患者さんとの関係が壊れ、後々のお世話が困難になるという悪循環に陥ります。
どんな時でも人と話す時には、相手を傷つけない話し方、態度というものがあると思います。
認知症だからと「構える」のではなく、自分と同じ一人の人間として、ちょっと相手のことを大切に思って接することをお勧めしています。
「見えない・目立たない矯正」の最新事情
装置が目立つのがイヤで歯列矯正に踏み切れないという方がおられるかもしれません。
しかし、医療技術の進歩によって、「見えない・目立たない矯正」といわれる審美性に優れた矯正治療法が数多く生まれています。
その中でも非常に審美性に優れた治療法として挙げられるのが「裏側矯正(舌側矯正)」と「マウスピース矯正」です。
「裏側矯正」とは、基本的に歯の裏側にブラケットというボタンを付けて、それにワイヤーをくくりつけて歯を動かす治療法で、周囲の人に気づかれずに治療を進められます。
「マウスピース矯正」は、歯型に合わせて製作した透明なマウスピースを定期的に交換しながら歯を動かしますので、装置が目立ちませんし、ワイヤーを用いた矯正治療とは異なり、取り外し可能な矯正器具のため、虫歯や歯周病になるリスクが減り、装置の不快感もほとんどありません。
裏側矯正は日本生まれの矯正治療法で、フランス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパや日本、韓国を中心に広まっており、一方、マウスピース矯正はアメリカ生まれで、こちらも全世界的に広がりをみせている矯正治療法です。
日本でも東京や大阪には裏側矯正専門やマウスピース矯正専門の歯科医院があり、大都市を中心に日本でも広まっております。
道南でも矯正治療を受けることは珍しいことではなくなっておりますが、裏側矯正やマウスピース矯正となると対応している矯正歯科医院が少なく、あまり知られていないのが現状です。
以前は、裏側矯正とマウスピース矯正は、表側に装置を付ける矯正治療法(唇側矯正)と比べて、治療期間がかかる、仕上がりが良くない、治せる症状が少ないなどといわれておりましたが、今では期間、仕上がりにほとんど差はなくなってきており、幅広い症状に対応できるようになってきております。
裏側矯正やマウスピース矯正には適した症状や利点・欠点がありますので、詳しくは、対応している矯正歯科医にご相談下さい。
睡眠が及ぼす歯への影響
健康を保つために、良好な睡眠の確保は欠かせないものです。
スマホやパソコンのブルーライトが睡眠に悪影響を与えると言われており、寝る前のスマホ操作を控えておられている方もいらっしゃると思います。
また、睡眠不足が溜まっていくことを「睡眠負債」と言われており、免疫機能の低下や認知症、癌など深刻な疾病につながる可能性が指摘されています。
睡眠の質を高めることは大切で、睡眠が浅いと歯ぎしりが起こりやすくなります。
歯ぎしりはいわゆる就寝中にギリギリと歯をこすり、その大きな音のため周囲の人の睡眠もさまたげるものです。
この時の咬合力は強く、歯が擦り減ったり、欠けたり、割れたり、詰め物が取れたり、知覚過敏を起こしやすくなり、虫歯になりやすく、歯質そのものに大変なダメージを与えます。
また、歯質だけではなく周囲の歯周組織にも悪影響を与えて歯周病が悪化したり、さらに顎関節にも負担が及び、顎関節症が生じることがあります。
睡眠が浅くなる要因のひとつに、いびきや睡眠時無呼吸症候群があります。睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まることで睡眠が浅くなると言われており、自動車運転時に強い眠気が生じ、事故の原因となり大変危険です。
その他の要因にストレス、寝酒、喫煙(ニコチンの覚醒作用)、逆流性食道炎があげられます。
歯ぎしりに対してはこのような要因を改善すると効果があります。
また、歯や顎そのものを守るためには、ナイトガードと言われる就寝中に装着するマウスガードも効果的です。
ナイトガードの装着は歯ぎしりによる強い咬合力を分散させ、さらにナイトガードは歯よりもやわらかい素材で作られるのが一般的ですので、歯ぎしりが起きたとしても歯に対する外傷的負担は減らすことができます。
歯ぎしりでお悩みの方は歯科医院でご相談されることをお勧めいたします。
血糖値が高いといわれました。症状は何もないのですが、糖尿病ですか?
気づいた時には取り返しのつかない場合も。
早期受診による血糖値のコントロールが大切
一般に「糖尿病」と聞いて、皆さんはどのようにお考えになりますか? 尿に糖が漏れ出すということは、文字から想像できるでしょうか。
知っている方では、症状がひどくなれば足を切断しなければならないと聞いたこともあるでしょう。
しかし、実のところよく知らないという方が多いのではないでしょうか? 糖尿病の患者さんにとって問題なのは、3大疾病としてあげられる糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性末梢神経障害にかかることなのです。
血糖値が多少高いこと自体は、かえって元気なくらいで具合の悪いことは無いのですが、ここに落とし穴があるのです。 血糖値が高い状態に長いこと置かれた血管は変性していき、ついには詰まってしまいます。
これが皆さんもご存知の梗塞(こうそく)です。
心筋梗塞、脳梗塞とは動脈が詰まって引き起こされる状態ですが、これが糖尿病で変性した血管をお持ちの方では、どこで起こるかがわかりません。
また細い血管ほど詰まりやすいことなどが、先の3大合併症を引き起こす原因になるのです。
網膜に症状が現れると目が見えなくなり、腎臓に症状が現れると人工透析になります。
さらに人工透析はさまざまな合併症を引き起こします。
一般に透析治療は5時間前後かかることや、週3回治療を受けなければならないことも辛いのですが、それ以上に、透析を長く受けることで血管内に尿素などとは違う悪いものが溜まり命を縮めてしまうのです。 糖尿病神経障害では、糖尿病により変性した血管で詰まった先にある体の部分は栄養が行かずに死んでしまうため、その先の感覚が無くなってしまいます。
すると、例えば足の裏に傷ができたり、ひどければ画びょうどころか五寸釘が刺さっても気付かない方もいます。
足の裏を見るという習慣があまり無いと思います。
つまりグズグズに腐るまで気付かないこととなります。
そして、気づいた時には傷によって腐ってしまった組織から悪い物質が足自体を侵食してしまい、その部分だけ切り取っただけでは完治しなくなってしまいます。
結局はもっと上の部分から切らなくてはいけないことになるようです。
これを専門家はアンプタといって、膝からの下腿切断を意味します。 つまり、痛くもかゆくもない糖尿病は気付いた時には人生をその時点より長らえること自体ができないということが怖いのです。
現在、罹ってしまうことで梗塞状態となった体中の細い血管を元の健康な血管に戻す有効な治療法はありません。
しかし、血管の変性を食い止める手立てはあります。
それが食事運動療法や薬、インスリン注射で血糖を下げた状態で過ごすことです。 血糖値が高いとしても今からでも遅くありませんので、まずは医師にご相談ください。
大人の喘息って?
成人喘息は過去30年間で約3倍にも増加しているといわれ、都市部に多い傾向にあるため文明病とも呼ばれています。
小児喘息から持ち越す人や再発する方もいますが、40~60代で発症する方も少なくありません。
実は成人喘息の発症パターンのうち最も多いのは成人になってから初めて発症するケースなのです。
小児喘息の9割以上でアレルギーの関与が認められるのに対し、成人の喘息においてアレルゲン(アレルギーの原因物質)を発見できるのは5割程度で残りの5割はアレルゲンを発見できない非アトピー型です。
しかし気管支の慢性的な炎症、ぜん鳴(呼吸のたびにぜいぜいする症状)が出て息苦しくなるという点では小児喘息と変わりありません。
成人喘息の悪化の原因はひとによってさまざまです。
以下に主なものをあげます。
①ダニはやペットの抜け毛やフケ、花粉、カビの胞子など(これらをふくむ室内埃をハウスダストといいます)。
②消炎鎮痛薬を飲んだり注射をした後で非常に重篤な喘息発作を起こされる方も成人喘息の約1割に認められ、これをアスピリン喘息とよびます。
③ストレス
④運動誘発喘息といって運動によって短時間喘息発作を起こすことがあります。これは発作が起きたからといってスポーツをやめる必要はなく適切な投薬でコントロールができます。
⑤室内空気汚染物質(たとえば石油暖房器などから発生する窒素酸化物や一酸化炭素、建材などから発生するホルムアルデヒドなど)が発作の誘因になることがあります。大気汚染も同様です。最近ではPM2.5なども問題になっています。
⑥たばこの煙。
⑦かぜや気管支炎などの気道感染。長引く咳や痰で悩んでいらっしゃる方はもしかしたら成人喘息かもしれません。適切な治療で驚くほど症状が改善することもありますので、そのような方はぜひ専門医を受診してください。
ストレスによる下痢・便秘
ストレスによって引き起こされる腸の病気に、「過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)」があります。「過敏性腸症候群」とは、大腸や小腸に潰瘍や癌などの原因となる異常が見つからないのに、便通異常(下痢や便秘)や腹痛、腹部膨満感が続く、又はおならが頻繁に出る等の症状が起こる病気です。
比較的まじめで几帳面な方が多く、職場や家庭での人間関係のストレス、転居や転職による環境の変化、過労や暴飲暴食などが引き金になって症状が現れます。このようなストレスが副交感神経を刺激し、腸の運動が過度に高まって、激しい腹痛や下痢が繰り返し起こるようになるのです。
便通異常の現れ方によって、三つの病型に分けられます。
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(1) |
便秘型―腹痛があり、便意があっても便が出にくく、ウサギの糞(ふん)のようなコロコロ便が出ます。 |
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(2) |
下痢型―緊張やストレスで、すぐにトイレに行きたくなり、軟便や水様性の下痢になります。下痢は長期間にわたり、重症の人ではいつどこで便意を催すかわかりません。逆にリラックスしているときは正常の便に戻ることも多いタイプです。 |
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(3) |
下痢・便秘交替型―腹痛・腹部不快感があり、下痢が続いた後、便秘が続くという状態を繰り返します。 |
治療は、まず、生活習慣の改善とストレスのコントロールが大切です。規則的な食生活や適度な運動や趣味でストレスを発散し、飲酒や喫煙は控えましょう。薬は、整腸剤や腸機能改善薬、または抗不安薬や抗うつ薬を用いることもあります。しかし、この病気は、長期間続き、完全には治りづらい病気です。生活を改善しながら、あせらずに治療を続け、上手に病気と付き合っていくことを心がけてください。
ただし、下痢や便秘の症状が続く時には、過敏性腸症候群以外にも、ポリープや大腸憩室炎、潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病、痔なども考えられます。また、大腸がんの可能性も高く、十分注意が必要です。腹痛や便通異常が続く時には、大腸カメラなどの検査が必要です。最近では、機械や技術の進歩により、大腸カメラの苦痛も軽減され、検査時間も十五分~二十分程度です。
おなかの症状が気になるときには、恥ずかしがらずに、まず消化器専門医を受診しましょう。









