危機を乗り越えて
いつもいろいろな方たちに病気の予防の話をするとき、防災に例えてお話をすることがありますが、このたびの大地震にはただただ驚くばかりです。
しかし困難な状況、先の見えない暗闇に光明を見る思いがしています。「災害に遭おうとも驚かず、艱難(かんなん)に向かうとも悲しまず」。
陸別町の開拓に貢献した幕末の医師、関寛斎(せきかんさい)の言葉の一部です。
立派な言葉ですがなかなか実践は難しいでしょう。
そもそも生きることは、いつも新しい事態に対処していくことに他なりません。
誰でも「やりたいこと」「こうありたいと願う姿」などを持っていますが、現実に「できること」とはズレがあります。
人は絶えず自分自身または環境を変えたりしてそのズレを調整したり、身の丈に合わせて「できること」の範囲で生活する術を身につけていきます。
しかし老いるということ、病むということは新たな事態に対処する力が衰えるということです。
報道される被災地のご高齢の方たちの姿に、胸が痛みます。
このような出来事をキッカケに健康を害することは想像しやすいことですが、感染症など環境要因によるものだけでなく精神的な影響による大きな喪失感はさまざまな病気を引き起こします。
しかし困ったときに人の手を借りる、困っている人に手を貸すことが自然に行われる社会では、心のケアがよりやさしくなると想像します。
昨今老いることや病むことを忌むべきこととして、それらに目を背けるような気配が世の中にあるように思われていましたが、大変な苦労をされている被災地で大きな混乱もなく互いに助け合う様子を伝え聞くとこの国はまだまだ捨てたものではないと思い直すのです。この度は、東北地方を中心とした大地震災害に遭われた方々、ご遺族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。最後に、エイブラハム・リンカーンの言葉を送ります。
「あなたが倒れてしまったことはもうどうでもいいのです。私はあなたが立ち直ることに関心があるのです。」
歯並びを悪くする癖
赤ちゃんがおっぱいを吸う姿は、かわいいものです。
赤ちゃんでは、歯が無いことにも関係しておりますが、舌を丸めながら、突き出し、乳首を包むように飲んでいます。
しかし、大人の場合には水を飲むときには、一度口の中にためて、唇を閉じ、歯をかみ締めて舌と上あごの間を絞り込むように、のどまで運びます。
赤ちゃんの飲みかたは、弱い力でも可能ですが、大人のように飲むには、ある程度、口からのどにかけての筋力と調和した動きを習得しなければできません。
それだけ高度な機能ともいえます。
しかし、大人でも幼児のような、舌の使い方をする人も、たまに居ます。つばを飲み込むときに、上と下の前歯の間に、舌を挟んだり、タ行の音を出すときに、英語で言うTHの発音になってしまう方や、舌っ足らずといわれるようなしゃべり方をされる方には、このような可能性があります。
このような癖を持つ方の場合には、奥歯をかんでも、前歯が開いてしまう開咬(かいこう)と呼ばれる不正咬合(こうごう)が起きます。
●舌訓練法(タングトレーニング) 歯は、硬い骨の中から生えてきますが、最初から、位置が決まっているわけではありません。
口の中に出てから、舌やほっぺたなどの筋力の強さによって、その位置が決まってきます。
また、上の歯とぶつかることにより、その位置が安定して収まります。
つまようじや、パイプなどにより、位置変化を起こすことも良く見られることです。
変な癖が付いている場合には、舌の訓練をして、よりよい口の動きの調和を促す方法も良くとられます。
舌やほっぺたなどの弱そうな筋肉を反復練習して鍛えます。
こうすることにより発音が良くなったり、口から食べ物をこぼすことが少なくなったりしますし、前歯がかみ合わない開咬も直ってきます。
コンタクトレンズ(CL)の装用で注意すべきことは何ですか?
コンタクトレンズ(CL)はペースメーカーと同じ高度管理医療機器です!
現在CL装用人口は2000万人を超え、日本人の6人に1人はCLを使用していることになります。
わが国にCLが普及して50年がたち、近視用のほかに、遠視・乱視・老視用のCLも種類が豊富になったため、若い人ばかりではなく、すべての年齢層で増加しています。 実は、CLは心臓に入れるペースメーカーと同じ高度管理医療機器なのですが、簡単な物と同様に扱っている人が多いのが現実です。
インターネット購入や、無認可のカラーCLを洋服屋で購入している人などは重症な角膜障害を起こして痛みが出てから初めて眼科受診をする人もいます。 CLと眼鏡の大きな違いは、CLは目の中に入り、角膜に直接触れているということです。
角膜が必要とする酸素は涙を介して空気中から供給されます。
ですからCLを装用すると涙が角膜とCLに挟まれることになり、眼鏡の人に比べて、角膜は酸素不足になりやすいのです。
さらに、自分の角膜の形にあっていないCLや、つけっぱなしで期間を守らず使用したりすると、角膜に取り込まれる酸素が不足して角膜障害が発症します。
角膜上皮がはがれると大変な痛みを感じます。
また、傷から細菌が入ると重症の眼内炎になり、ひいては失明にいたることさえあります。
CL使用者はこれらのことを知って正しい使い方を守ってほしいと思います。 眼鏡店の中では、眼科医ではなく他科の医師の免許を使い診療ブースを開設している所もありますので、CLの診療は正確な知識がある眼科医のもとで受けてください。 正しい使い方をすれば、CLは大変便利なものです。
特にソフトCLでは、激しい運動でもずれにくく、くもらず、視野が広いという利点があり、スポーツ時には最適です。
近年はシリコンハイドロゲルという新しい素材のソフトCLが発売され、涙からでなくても酸素が通る素材なのでより安全に使用できるようになりました。
ほかにも、乱視や老眼にも対応できる色々な種類のソフトCLがあります。 また、強い乱視や円錐角膜などで角膜の形に強いゆがみがある場合はハードCLで角膜表面の形をしっかり覆い矯正することによりはっきり見えるようになります。 現在のCLは素晴らしい品質で、あらゆる人に対応できるほど種類も豊富です。
レーシック手術を受けてしまうと老眼年齢(40代後半)になってから辛い思いをします。
流行のレーシック手術を受ける前に、年齢に合わせてCLを着替えていくことも考えましょう。
乳房再建について
現在の乳がんの手術は、乳房温存術(乳房部分切除)が第一選択ですが、大きい乳がんや広範囲に拡がった乳がんでは乳房切除が行われています。
乳房を全摘出した方の中には、やはり、どうしても左右のバランス、乳房の喪失に伴う見た目の問題で悩んでいる人も少なくありません。
温泉などの公共の場から足が遠のいてしまうこともあると思います。
『乳房再建』という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
乳がんで失われた乳房を再び取り戻す手術を乳房再建と言います。
再建する方法には、人工乳房を用いる方法(インプラント)と自家組織を用いる方法があります。
以前は、人工乳房を用いる方法は保険適用外であり、乳房再建を希望する人は自費で行っておりましたが、2013年7月から、人工乳房を用いた乳房再建手術が保険適用となり、乳房再建を希望される方がさらに増えることが予想されます。
保険適用ではなかった時期は、約80~100万円程度の自費負担でありましたが、現在は、保険適用と高額療養制度を用いると、10万円ほどで乳房再建が可能になってきております。
実際、乳がんの手術自体も以前に行われていたような無理な温存手術が減り、安全に乳房全摘出した後に乳房再建を行うという選択肢が増えてきています。
実際の再建までの流れを、乳がんで乳房切除を行っている人を例にとってみます。
まずは、人工乳房を入れる部分に、皮膚拡張器(ティッシュエキスパンダー:簡単に言うと水の袋)を挿入し、数カ月かけて徐々に水を増やしながら皮膚を拡張させていきます。
その後、永久的な人工乳房(インプラント)に入れ替えを行います。
乳房再建は主に形成外科医が中心になって行いますが、乳腺専門医との協力が非常に重要です。
それぞれの資格を持った病院・医師にご相談してください。
しかし、これらの乳房再建は、美容の目的や予防のための乳房切除(遺伝性乳がんなど)には、保険適用がありません。
今後、乳房再建手術は、乳房切除をされた方の生活の質の向上に役立つ一つの選択肢になってくると思われます。
携帯のメールを打つときはドライアイに注意
涙は眼球表面全体を覆い、それを潤し、眼を守るバリアとして働いています。涙の量が減ったり成分が変化すると、角膜や結膜が乾燥し、傷つきます。これがドライアイです。といっても、「目が乾く」と感じることより、目が疲れる、目がしょぼしょぼするなどの目の不快感が主な症状です。疲れ目を訴えて眼科を訪れる人の約6割はドライアイが関係しているという調査もあります。
目が疲れやすい/目が乾いた感じがする/目がしょぼしょぼする/目がゴロゴロする/目が重い/目が痛い/なんとなく目に不快感がある/目ヤニが出る/目が赤い/まぶしい/目がかゆい/物が霞んで見える/涙が出る。
この中で五つ以上あてはまれば、ドライアイかもしれません。
ドライアイになる原因には次のような要因があげられます。
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(1) |
空気の乾燥(秋から冬にかけて空気が乾燥していると、目の表面から涙液が蒸発しやすくなります) |
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(2) |
瞬きが少ない(読書やパソコン操作に集中していると、瞬きの回数が減ります。最近では携帯のメールを打つときにも多く見られVDT症候群と呼ばれています) |
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(3) |
コンタクトレンズの装着(コンタクトレンズが水をはじくため、目が乾燥することがあります) |
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シェーグレン症候群(中年の女性に多い病気で、目や口、鼻などの粘膜が乾燥し、関節痛が起きることもあります) |
ドライアイの治療には、
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(1) |
点眼薬で目を潤す(人工涙液や保水効果のあるヒアルロン酸という薬を点眼して直接、眼の表面を潤すことが、ドライアイの基本的な治療法です。なるべくこまめに点眼します) |
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(2) |
涙点を塞いで涙の排出を減らす(涙を排出する涙点に小さなプラグを差し込んだり、涙点を閉じる手術をして塞いでしまえば、涙を眼球表面に長く留めることができます) |
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(3) |
フード付き眼鏡の利用(自分の眼鏡にフードを取り付けたり、フード付きドライアイ専用眼鏡で涙の蒸発を防止)などがあります。 |
レビー小体型認知症
認知症には様々な種類のものがありますが、その一つが「レビー小体型認知症」です。
脳に「レビー小体」というものが見られることからこのように呼ばれています。
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症、血管性認知症と並んで、比較的多く見られる認知症です。
認知症と言うとまず物忘れが思い浮かびますが、レビー小体型認知症では物忘れを始めとする認知機能の低下があまり目立たない場合があり、次のような様々な症状が出現する傾向があります。
まず、睡眠時に大声で叫ぶ、壁をたたいたり、暴れたりすることがありますが、これは夢に関係する症状です。
夢を見ている時には筋肉は弛緩しており、実際の行動は起きないものですが、そのバランスが崩れると様々な行動となって現れるのです。
また、良く見られる症状には幻覚、特に幻視があります。
「子供がたくさん来ている」、「孫が居る」などと言ったりします。
同じ内容の幻視がありありと、繰り返し体験されるのが特徴です。
また、抑うつ症状が目立つこともあり、特に高齢の方の治りにくいうつ病の場合には注意が必要です。
動作が遅くなったり、つまづきやすくなったり、パーキンソン病の症状が見られることがあります。
また、自律神経の症状として、起立性低血圧、必ずしも原因ははっきりしないのですが、失神も起きることがあります。
検査に関しては、脳シンチという検査が有用です。
頭部MRIでは萎縮が明らかではなく、はっきりした所見が得られない場合でも、脳シンチでは後頭葉の血流が低下していたり、基底核という部分への薬剤集積が低下しているのが分かります。
治療についてですが、薬剤の副作用が出やすいことが特徴であり、量的に少な目に処方することになります。
認知症に対する薬、漢方薬、パーキンソン病に対する薬、場合によっては少量の精神安定剤が用いられます。
乳幼児の下痢~水分と食事の与え方~
乳幼児は、さまざまな理由で下痢をします。基本的には、便がゆるくても、吐き気がなく元気で食欲があれば、食事を制限する必要はありません。吐き気が強く、嘔吐(おうと)を繰り返すときには、数時間、口に何も入れずにお腹を休ませますが、小児は脱水になりやすいので、点滴などの治療が必要になることがあります。
吐き気が軽くなってきましたら、乳幼児用イオン飲料や医師から処方された経口(けいこう)補液剤を、少量ずつ頻回に与え、徐々に量を増やしてください。このとき、大人用のスポーツ飲料は、電解質と糖分の組成が違いますので、乳幼児の下痢のときには不向きなことがあり、注意が必要です。吐き気がなくなりましたら、ミルクや母乳、消化の良い食べ物を少しずつ開始します。
乳児の場合、母乳はそのまま飲ませてあげてください。母乳は消化吸収に優れていますし、感染を防ぐ物質や下痢を治すための物質がたっぷりと含まれています。人工乳(ミルク)の場合は、下痢が軽いときには通常の濃度で、下痢が強いときには二分の一~三分の二程度に薄めたミルクから開始します。下痢が続くときには、特殊なミルクが必要な事もありますので、医師に相談してください。授乳の合間には、乳幼児用イオン飲料などで、不足している水分量を補いましょう。離乳食は、吐き気が無くなり水分が取れるようになってから再開します。下痢が軽いときは、一段階前の離乳食から開始し、下痢が強いときは、初期から再開します。便の様子を見ながら、あせらずにもとの段階にもどしていきます。
幼児の場合は、水分が飲めるようになった段階で、重湯(おもゆ)、野菜スープ、みそ汁などを経て、お粥、柔らかくゆでたうどんや野菜(にんじん、かぼちゃ、じゃがいもなど)、豆腐、白身魚、鶏のささみなどを与えていきます。
いずれの場合も、原因や重症度で対応が異なることもありますので、医師の診察とアドバイスは必ず受けましょう。
妊娠期での歯周病の影響
近年の歯科疾患実態調査では、国民の口腔の健康を目標にしてすすめていた8020運動など歯科業界の取り組みが奏功し、過去に比べ虫歯が減少しているのが示されています。
しかし、虫歯が減った代わりに歯周病で歯を失うケースが多くなり、その原因の1つに歯が痛くならないと、歯科医院へ来院されない傾向が依然としてあるためであると思われます。
歯が痛くて咬めない、歯がグラグラするなどの自覚症状が起きた時には、歯周病がかなり進行している重度のケースが多いだけに、軽度、中等度の歯周病にかかっている患者さんは歯科医院で実際に歯周病検査を行ってもらわなければ、その病態を把握するのは難しいと思われます。
前回にも書かせていただきましたが、妊娠すると妊婦さんの歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)からは、増加するエストロゲン(卵胞ホルモン)を好む歯周病原細菌が多く検出され、さらにプロゲステロン(黄体ホルモン)も増加することで歯肉に炎症が起こりやすくなります。
もともと歯周病が進行していた患者さんはさらに悪化しやすくなります。
また、つわりがひどくなれば歯ブラシを口の中に入れるのも容易ではありませんから、妊娠期は歯周病が悪化しやすいのです。
歯周病の影響は母体のみならず、胎児に対しての影響を指摘する論文が散見されます。
早産(22~36週での出産)および低体重児出産(2500g未満での出産)に対して、近年歯周病の影響が報告されています。
早産の原因には感染や体質によることが多いと言われています(日本産科婦人学会による)が、最近の報告ではリスク因子の1つとして、歯周病の治療を行うことでこれらのリスクを軽減する可能性が示唆されています。
そのため、妊娠の可能性のある患者さんや既に妊娠中の患者さんにはご自身のお口の健康だけではなく、生まれてくる赤ちゃんのためにもさらなる歯周病のケアをお勧めいたします。
家族みんなでインフルエンザワクチンを!
初雪も降り徐々に師走が近づいてきています。インフルエンザワクチン接種は、お済みですか?
インフルエンザは、毎年冬季に流行を繰り返し、人口の5~20%がかかるといわれています。
日本でインフルエンザに関連した死亡は、毎年数千から数万人の報告があるそうです。
1960年代から30年間にわたり学童集団予防接種が行われていたため、1980年代まではインフルエンザ関連死亡数は低く抑えられていたのですが、集団接種中止以降、死亡数が増加しているそうです。
インフルエンザは、毎年流行するウイルスが変化します。
そのためワクチンは毎年WHO(世界保健機関)の会議で流行するウイルス株を予測し、それをもとに日本での流行状況を加味して独自に作られます。
ワクチンの発病予防効果は、健康成人では70~90%といわれていますが、これはあくまでも流行したウイルスとワクチンの予測が一致した場合であって、インフルエンザウイルスは流行中に突然変異を起こすことがありますので50%程度に予防効果が下がることもあるのです。
ちなみに、乳幼児の予防効果は20~50十%、学童は成人とほぼ同様です。
インフルエンザのワクチンは乳幼児や高齢者などのハイリスクの人だけにワクチンを打つより、その方に接する可能性のある家族全員にワクチンを接種した方が効率的に予防できます。
イギリスでの報告は、老人施設内の入居者全員にワクチン接種した場合と、逆に老人施設に出入りする職員だけにワクチン接種をした場合、同等の効果があったそうです。
これからもわかるように、インフルエンザは自然になるのではなく、周りの人からもらうものなので、その周りの人も一緒にワクチンを受けた方が良いようです。
今年からは、家族みんなでワクチンを受けられてはいかがですか?
大腸検査は苦痛ですか?
大腸の検査というと、ちょと抵抗がありませんか?
今回は大腸カメラの検査について説明しましょう。
検査の前日は、野菜や果物などの繊維質を控えていただきますが、食事は普通にされてもかまいません。職場に検査食を持ち込まなくても大丈夫。当日の朝食は摂らずに腸の中を洗浄する薬を朝から2時間ほどかけてゆっくり飲みます。
この洗浄剤は、以前はとても飲みづらいものでしたが、最近では、レモン味、グレープフルーツ味などに味付けされた液体、又は、お茶などでも飲む事ができる錠剤もあり、好みによって使い分ける事が可能になりました。
腸の中がきれいに洗浄されると、検査が始まります。腸の長さや癒着(ゆちゃく)の程度にもよりますが、20分程で検査は終了し、昼食後、午後の仕事も可能です。
大腸カメラは苦痛と思われがちですが、最近は機械や技術の進歩により、苦痛はかなり軽減されていますよ。









