貧血をあなどらないで
貧血という病名を聞いたとき、みなさんはどのような症状を思い浮かべるでしょうか?
貧血は血色素(ヘモグロビン)の値が何らかの原因で減ってしまい、赤血球をうまく作れなくなった状態です。
一般的には10〜40代の女性に多い鉄欠乏性貧血がよく知られています。
立ちくらみやめまいの症状を貧血と思っている方が多いと思いますが、これは起立性低血圧などの血圧の調整障害の症状であり、貧血の症状ではありません。
受診される鉄欠乏性貧血の患者さんの多くは、健康診断で貧血を指摘されたり、指摘されていたのに自覚症状がなかったので放置していた方がたくさんいます。
慢性的に進行する鉄欠乏性貧血は、身体が順応してしまい、自覚しにくいのかもしれません。
また、自覚症状であってもそれを貧血の症状と思っていないこともありえます。
鉄剤投与で貧血が改善すると、「身体がらくになった」「ぐっすり寝られるようになった」「集中力が戻ってきた」という方が実は多いのです。自覚症状がないからといって身体に負担がかかっていないというわけではありません。
赤血球は身体全体に酸素を運ぶ役割を果たしているので、貧血の時には体中が酸欠となってしまい、じわじわと身体を苦しめているのです。
身体からSOSサインは出ているはずなのですが、「軽い貧血だから」とか、「貧血くらいで受診してられない」と無視している方が少なくありません。
貧血を決して、あなどってはいけません。
感染性胃腸炎に注意しましょう
感染性胃腸炎はウイルスや細菌などの微生物が原因となって起こる感染症で、発熱、腹痛、嘔吐、下痢が主な症状です。食物が原因の場合は「食中毒」とか「食あたり」などともよばれますが、嘔吐で空気中に飛散したり人の手への付着を介して微生物が口から入って起こる場合もあります。原因微生物としては黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、ウエルシュ菌、ロタウイルスなど多くの種類がありますが、中でも感染力の強いノロウイルスはウイルスの数が10~100個という少数でも感染が成立するとされておりしばしば食中毒の集団発生の原因となります。最近では新型コロナウイルスも原因の一つにあげられます。報告により差がありますが概ね新型コロナウイルス感染者の5%程度が胃腸炎症状を呈すると考えられ注意が必要です。
どの微生物が原因であるかは、食べた物の内容や摂取から発症までの時間などの情報からある程度推定できる場合もありますが、確定するには便から微生物を検出する必要があります。しかしほとんどの感染性胃腸炎は自然に治る傾向が強く数日で治癒する場合が多いので、特に成人の場合多くは実際には検査は行われていません。
治療は整腸剤の内服や水分補給・点滴など対症治療が基本となります。胃腸炎における嘔吐や下痢は生体の防御反応でもあるので、無理にそれらを止める治療は行わない方が良いとされています。抗菌薬が有効な細菌が原因の場合でも全例で投与するわけではなく、小児や高齢者のような悪化しやすい方や重症例で必要に応じて投与を検討することになります。なおウイルスに有効な薬剤は今の所ありません。
夏は感染性胃腸炎が多い季節です。予防のために手洗いは石鹸でこまめに行い、食品の衛生管理には十分気をつけましょう。
ドライアイ
最近物がかすんで見える、なんだか目が疲れやすい、目がごろごろする、痛い、しょぼしょぼする、目が乾いた感じがする、こんな症状がある方はいらっしゃいませんか。 これらは全て、ドライアイの症状です。
他にも、まぶしくて目が開けられない、涙が多いなどさまざまな症状が出ます。複数の症状が出ることもあれば一つの症状しか出ない方もいます。
夕方に症状が悪化しやすいのも特徴です。
高齢の方にも多いですが、コンタクトレンズを装用する若い方などにも見られます。
原因は涙の質の低下、量の低下などです。
放置すると、目の慢性的な疲れから日常生活に支障を来すことがありますので治療が必要となります。
ドライアイの治療はまずは点眼薬で行います。
思い当たることがあればお気軽に近くの眼科においでください。
ワクチンのシーズンがやってきました
いよいよ、師走も近づいてきました。インフルエンザワクチン接種は、お済みですか?
「去年打ったから今年は大丈夫!」と思っている方はいませんか?
インフルエンザは、毎年はやるウイルスのタイプが異なるため、毎年接種すべきワクチンです。函館市民で六十五歳以上の方は、市の助成があるため千円で接種できます(収入に応じて無料になる手続きもあります)。まだ未接種の方は、十二月初旬までには済ませることをお勧めします。
また、最近では肺炎球菌(はいえんきゅうきん)ワクチンを接種する方も増えています。「肺炎球菌って?」聞き慣れないと思います。健康な方でも風邪をこじらせ肺炎になることがあります。また、高齢になればなるほど、その死亡率も高くなります。この肺炎の原因の約三十%を占めるのが、肺炎球菌なのです。
また、この肺炎球菌が最近では薬の効きにくい耐性菌に変わってきているそうです。肺炎球菌による肺炎を予防するのが肺炎球菌ワクチンです。
どういう方に勧めるのか?
―やはり高齢で、慢性の心臓病・呼吸器疾患〔肺気腫・喘息(ぜんそく)など〕・腎疾患・肝疾患・糖尿病の方にお勧めします。肺炎球菌ワクチンは、通常、一回の接種で約五年間ほど有効であり、約八十%の肺炎球菌感染症に効果が期待できます。インフルエンザワクチン接種後一週間以上経過すればいつでも打つことができます。ただし二歳以上で脾臓(ひぞう)を摘出した方のみ保険適応となっており、ほとんどの方は実費で接種することになります。詳しくは、かかりつけ医にご相談ください。
また、インフルエンザワクチンは、インフルエンザにしか効きませんし、肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌による感染症にしか効きません。ワクチンは万能薬ではありませんので、これからのシーズンは、ワクチンを接種しても、風邪の予防(人込みを避ける、外出後はうがい・手洗いを励行する)等は続けてくださいね。
整形外科における予防医療について
生活習慣病と同様にこれからの整形外科においても、予防医療として次の3点が重要となります。
(1) 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防
(2) 歩行能力を中心とした全身の筋力維持
(3) 肥満の予防
高齢化社会では(1)が最も大切です。
骨折したり、腰が曲がってしまう前に、まず正確な骨量測定が必要です。骨量が低い方は50歳代からの早期治療が効果的です。
(2)ではウォーキングを中心としたスポーツを積極的に行なうことが必要です。
(3)では50歳以降には、基礎代謝が減少しますので10年ごとに摂取カロリーを10%ずつ減らしましょう。
(2)と(3)はスポーツの実践によって同時に効果が上がりますので、自分に適したスポーツを長く続けることをお勧めいたします。
疥癬(かいせん)はこわくない
疥癬はヒゼンダニが皮膚の最外層である角質に寄生する疾患です。
主に指間や脇の下、陰部などの軟らかい皮膚に感染し、その後アレルギー反応により他の部位にも皮疹が出現し、夜間強いかゆみを感じるようになります。
ほとんどが病院や高齢者施設で発生し、看護や介護する人に感染してしまうことがあります。
診断のために、皮疹をとって顕微鏡で虫・卵・糞を確認しますが、どこに虫がいるのかを考えて検査をすることがとても重要です。
他の病気を媒介することはありませんが、肌が触れると感染することがあり、知らないうちに家族に感染させてしまうこともあります。
現在、内服での治療ができるようになり、簡単に治るようになりましたが、治療が遅れると虫がいなくなっても、痒みだけが長期間残ってしまうこともあります。
早目の治療をお勧めします。
乗り物酔い
行楽シーズンになりましたね。
旅行に出かける方も多いのではないでしょうか。
でも、乗り物酔いになってしまうとせっかくの旅行も台無しですね。
古代ローマ帝国の皇帝シーザーや映画「アラビアのロレンス」のモデルとなったトーマス・エドワード・ロレンスも乗り物酔いに悩まされていたそうです。
では、乗り物酔いはどうして起こるのでしょうか。
私たちは普段の動作やさまざまな乗り物からの感覚情報を経験として脳に記憶しています。
乗り物に乗ったとき、入ってくる感覚情報がこれまでの経験や記憶のパターンから予測される感覚情報と一致しないと情報処理に混乱が起こり乗り物酔いが引き起こされると考えられています。
従って経験パターンが豊富なほど乗り物酔いが起こりにくくなると言えます。
普段からできるだけ多彩な身体の回転運動や振動運動を体験し、感覚情報のパターンを記憶させておくことが乗り物酔いの予防につながります。
しかし、すべての乗り物に適応できる運動や訓練を行うことは難しいので具体的には以下の様な予防対策をしていただくとよいと思います。
出発前:
①前日に十分な睡眠をとる。
②軽く食事をとり空腹を避ける。脂肪分の多い食事を控える。
③乗る前に排便を済ませる。
④体を圧迫する様な衣服を避け、ネクタイやベルトをゆるめる。
⑤酔いやすい人は乗車30分前に酔い止めを服用する。
移動中:
①揺れの少ない座席を選ぶ。
②後ろ向きの座席を避けて進行方向が見える前の方の座席に座る。
③遠くの景色を眺めるようにする。
④読書やスマートフォンの操作を避ける。
⑤寝るように心掛ける。
不眠症
成人の20%が不眠に苦しんでいるともいわれており、不眠症が最も多い健康問題の一つであることは間違いありません。
就寝後眠るまでに30分以上かかる、夜中に何回も目が覚める、期待した時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまう、朝起きた時に熟睡感がない、というのが不眠症の症状です。
しかし、このような症状があっても、日中に影響のない場合には「不眠症」ではなく、疲労、倦怠感、集中困難、意欲低下、不安、その他の問題が生じている時に、はじめて「不眠症」という診断がなされます。
このような症状が、心配事や痛みがある時に数日出現したり、仕事や家庭のストレス状況において数週間出現することがあるのは当然です。
しかし、長期的、慢性的に持続する場合には、心臓の病気、高血圧、肥満、高血糖やうつ病など、様々な問題が起こりやすくなり、不眠症は一つの病気として対処することが必要となります。
不眠を続けさせるような仕組みができあがっているため症状に対処するだけでなく、慢性的に不眠を続けさせる要因にも働きかける必要があるということです。
脳は過度に目覚めた状態になり、不眠を維持させるような行動パターン、考え方が続くようになるわけです。
治療としては薬物療法の他、行動パターン、考え方に対する働きかけが必要となります。薬物療法では最近副作用が少なく、依存になりにくい薬(非ベンゾジアゼピン系といわれる薬などです)が多く処方されるようになってきています。
薬以外の対処方法には指針があって、次のようなことがすすめられています。たとえば、
①寝る時間と睡眠時間にこだわりすぎない、
②起床時間を一定にして、起床後に日光に当たる、
③午後から夕方の規則的な運動、
④カフェインなどの刺激物質を避ける、
⑤リラックスする、などです。
要するに、複数の方法で対処することが望ましいと考えられています。
プラネタリウムと歯科矯正
まったく関係のない2つの言葉ですが両方とも子供たちのために歯科医となってから興味を持ち勉強し始めたことです。
歯科矯正学は、一般になじみがあまりないと思いますが、唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)の子どもたちを医科大学がない地方都市の函館でも高度な優れた治療を受けることができるように歯科大学を卒業後、口腔外科と矯正歯科の医局での9年、米国・カナダでの口蓋裂治療現場を回り、経験。
その後、函館に戻ってきたわけです。
また、プラネタリウムは上映施設のない函館でも子どもたちに自分の技術で見ることができる環境を作ろうと考えて8年前より続けていることです。
両方とも子どもたちに喜ばれている分野ですが、プラネタリウムのほうは、見た子どもから直接、「楽しかった」と言われることが多い分野です。
唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)と歯科のかかわり
唇顎口蓋裂は、胎生期に癒合するはずであった上あごの真ん中部分が離れたままで生まれてくる疾患で、最近では手術や矯正歯科治療の進歩により、治ってしまえば誰も気づかないこともあります。
私が札幌医科大学の口腔外科に勤務していたころは、この疾患を持つ子どもたちが北海道各地から集まっておりました。
しかし、現在ではほとんどが北海道各地方都市の総合病院にいる形成外科医から治療を受けられます。
その中でも、この疾患についてトレーニングを積んだ医師のみにより手術されております。
最近では、出生直後のホッツ床(口蓋裂があるため哺乳が困難な場合に口と鼻を遮断し哺乳を助ける柔らかい樹脂で作った入れ歯のような上顎にはめるプレート)の使用から始まり、歯列矯正治療を終えるケースで考えると、歯科医とは17年間ほどの長い期間付き合うことになるため「こころ」の管理をふくめて、長期の取り組みが必要となります。
この疾患の発生原因は不明で、おおよそ5、6千人に1人の割合で生まれます。
函館の人口は約28万人ですので統計上500名程の患者がいると考えられるということになります。
一昨年、日本口蓋裂学会に当院の統計について報告させていただきましたが、それによると23年間に受診した唇顎口蓋患者さんは、225名でした。
人生80年とすると、23年間の受診者数から算出すると統計上考えられる500名を上回るので函館地区のほとんどの方が当院を受診していることになります。
この疾患へは、言語治療士やその他の医療従事者によるチームアプローチによる取り組み治療がされております。
この疾患の影響により、上あごの発達が悪くなりやすく、反対咬合や乱杭(ラングイ)歯が生じ、矯正歯科を含めた歯科治療が必須のものとなります。
矯正歯科の保険導入については、コロンビアトップ議員の国会質問がきっかけとなり、1982年にようやく保険導入が開始され、まだ30年しかたっておりません。
函館でも良い医療を提供するため、歯科医は頑張っております。









