手のしびれについて
「手のしびれ」の原因は様々ありますが、整形外科で多いものとしては肘部管(ちゅうぶかん)症候群と手根管(しゅこんかん)症候群の2つの疾患があります。
肘部管症候群は多くの場合、変形性肘関節症と合併し、肘の内側を通る尺骨(しゃっこつ)神経が圧迫されて発症します。症状は環指(かんし=薬指)、小指のしびれと握力の低下、手指の繊細な動きの障害などで、徐々に進行します。日常生活に支障が出る場合には神経の圧迫を除去する手術が必要です。
手根管症候群は手仕事をする女性に多く、母指、示指、中指のしびれを主症状とします。手関節の掌側で正中神経が圧迫されることが原因です。急性期には疼痛(とうつう)を伴い、神経の圧迫部位を刺激すると指先に放散痛も生じます。
再発をくり返す場合には、掌側手根靭帯を切除し、正中神経の除圧手術を行ないます。
良い塩梅の塩加減
脳、心臓や腎臓に重大な障害をもたらす悪い病気としては、特に高血圧が良くないのですが、血圧を上げる原因の1つに食塩の取りすぎがあります。
高血圧が毎日の食事と関連する生活習慣病と言われるゆえんです。 「和食はとても健康的な食事だ」と言われています。
実際その通りなのですが、塩分の取り方が多い食事でもあります。
冷蔵庫がない高度成長期の以前には、食品の保存に塩が防腐剤の役割をしていたのです。
漬物、みそ、しょうゆは明らかにしょっぱいですが、かまぼこもつなぎに塩を使っています。 冷蔵庫が三種の神器として各家庭に普及した後も、1日20g以上の塩を取る生活が続いていました。
塩分の取りすぎから高血圧になり、血圧が高いために脳内の血管が破れたり詰まったりして、脳卒中を発病することが非常に多かったのです。
だから昭和の中期(’60年)までは、脳卒中が死亡原因の1番で、平均寿命は65歳程度でした。
その後の減塩運動が奏功したり、高血圧の治療が普及したりして、脳卒中の死亡は急激に減り、日本の平均寿命は大きく伸びました。
減塩した食事では、下の血圧(拡張期血圧)が特に下がりやすくなります。
日本人の塩分平均摂取量は’85年頃には1日13gが平均でしたが、最近は10.5gに減っています。
ただし、北海道は塩の取り方が多い方の地域になります。
1日の塩分は6~7gが理想的と政界保健機構では勧めますが、日本では、まだ遠い目標と思われます。 梅干し1個1g、カレーライスには3g、ラーメン・とんかつ定食には4g、そば・すき焼き定食には6gの塩が入っています。
だから、そばを汁まで飲んでしまうと1日分の塩を取ることになるので、汁は飲まないようにすることが必要になります。
一般的に外食では塩分が多くなると思って間違いありません。
コンビニ弁当も付いている調味料を使わないようにして1食の塩が4g位になります。
レモンや酢を調味料に多く使うと、また、昆布でだしを濃くとると塩の量を減らすことができます。
いろいろと工夫して減塩するように気を付けてください。
飛蚊症(ひぶんしょう)
飛蚊症とは、目の前にごみのような浮遊物が見える状態です。蚊が飛んでいるように見えるのでこの名前がつきました。視線を動かすと一緒についてきて光の加減で白く、又は黒くも見えます。
この浮遊物は目の中の硝子体(しょうしたい)の濁りで、その影が網膜に映って見えるためにこのような現象が起こります。
飛蚊症の多くは老化や近視のために起こります。
60歳位になると多少あっても不思議はありません。うっとうしい感じがあっても取り除くことはできませんし、ほとんどの場合は心配ありません。
しかし、数が突然増えたり、急に色が濃くなったり、又は光が走るような症状を伴う場合は硝子体出血や網膜剥離(もうまくはくり)の初期症状である可能性があります。このような場合は急いで眼科を受診し、眼底検査を受けて下さい。
その症状、白内障かも!!
人間の目はカメラに似ていて、レンズにあたるのが水晶体です。
水晶体は加齢とともに濁ってきて、それが『老人性白内障』です。
50歳を過ぎると5人に1人くらい、80歳ではほぼ全員が白内障になります。
以下のいずれかの症状がある時は、白内障の可能性があります。
①遠くも近くも、かすんで見える
②明るい所でギラギラしたり、物が見づらい
③今まで老眼鏡が必要だったのに、急に近くが見やすくなる
④物がだぶって見える
最近はアトピー性皮膚炎や糖尿病との合併による50歳以下の若い年齢での白内障も増えてきています。
白内障は、進行を遅くする点眼薬がありますが、この点眼で水晶体の濁りをなくすことはできません。
あくまでも進行を少しゆっくりするだけなので、いずれは手術で濁った水晶体を取り除き、かわりに人工水晶体を入れることになります。
濁っている部分や程度は個人差があります。
ひとりひとり手術するべき時期は違うので、眼科医とよく相談して治療方法のアドバイスを受けて下さい。
私、大動脈瘤(りゅう)が心配で…
「先生、何となく胸と背中が痛いような気がするので、私も大動脈の検査を受けなくてもいいでしょうか?」とAさんは心配そうに聞いてきました。どうやら最近のニュースで有名人が解離性大動脈瘤のため緊急入院し、とても危険な病気であると報道されたので、自分は大丈夫かと不安になったとのことでした。
解離性大動脈瘤とは正しくは大動脈解離といい、大動脈の血管壁が二層に裂ける(=解離する)ことで起こります。喫煙歴のある高齢者、低蛋(たん)白血症の状態、寒い冬場や朝の血圧が高い時間帯などに起こりやすく、急性期には激烈な痛みが胸、背中、腹などに出現し、その痛みは解離の進行とともに移動する事がしばしばあります。
その他に胸部や腹部の大動脈壁がふくらんでこぶのようになる胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤という病気もあります。高齢者や高血圧の方、また腹部大動脈瘤では喫煙歴のある方に起こりやすく、無症状のまま慢性に経過した場合は発見が遅れる事もあります。
これらの病気の診断にはCTやMRIや超音波検査などが行われます。
治療法は解離や瘤のある場所、その大きさ、進行の速度、痛みの有無などによって、手術(人工血管置換術)か内科的治療(降圧、安静、鎮痛)かが選択されます。また近年はステントグラフトによる治療も選択肢の一つとなり、手術より身体に負担の少ない治療法として期待されています。
大動脈の解離や瘤は、一部には遺伝により発症するものもありますが、多くは動脈硬化が原因であり、生活の欧米化や高齢化社会の到来により近年は増加の一途にあります。しかし突然の解離や瘤の破裂による致死率は高いものの、その発生件数は心筋梗塞などと比較すると多くはありません。Aさんのように必要以上に心配するのではなく、それよりもまずは毎日の動脈硬化予防、とりわけ高血圧やスモーカーである方は食事の塩分を減らすことと禁煙に努めていくことこそが大切です。
コロナウイルスワクチン接種について
いよいよ65歳以上の方のワクチン接種がはじまりました。ここで、現在使用されているワクチンについておさらいしましょう。まず、接種間隔は、3週間が基本です。2回目を打ちそびれた場合はできるだけ早く打ちましょう。1回目の接種と2回目の接種では、副反応の発生頻度に差があります。先行接種の全年齢集計では①37.5度以上の発熱について、1回目3.3%2回目38.4%(中には38度以上の方もいます)と高率でした。発熱する場合は、翌日が一番多く3日目にはほぼ解熱しています。②接種部位の痛みについて、1回目2回目ともに90%程度と高率です。これも接種翌日が、最も多く3日目には改善してきます。③疲労感・倦怠感については、2回目で全体で7割。④頭痛は、2回目で5割の頻度となります。若年・女性に頻度が多くみられました。65歳以上の2回目接種時は、副反応は発熱9%・頭痛20%・全身倦怠感38%となりました。
これらの副反応はワクチンが免疫をつけるための反応といわれています。発熱については、当日から翌日にかけて上がり通常数日以内で治ります。一人暮らしで心配な方は、発熱・疼痛に備えてかかりつけの先生や薬局で熱冷ましや痛み止めを処方・購入し、食欲低下等に備えレトルトパックの食材やスポーツ飲料等をあらかじめ購入しておき脱水を予防しましょう。
医療機関もがんばっています。通常外来・発熱外来・ワクチン接種は、院内で15分待機・病院内を混まないよう等努力していますので、接種予定がまだの方も今しばらくお待ちいただくようお願いします。
原稿を書いている5月15日現在、最新の話題は、横浜市立大学医学部の発表で、このワクチンは、現時点での変異ウイルス英国型・南アフリカ型・ブラジル型・インド型に対しても中和抗体ができるそうです。期待して待ちましょう。
遠近両用コンタクトレンズと老眼
眼科の診療は、ほとんどが顕微鏡をのぞきながらの診察になりますが、涙目の検査をするときなど、肉眼で患者さんにすごく近づいて行うことがあります。50歳を超えると、そのように近づいて検査する時、患者さんの目を見るのが辛くなってきてしまいました。老眼の始まりです。
近視用のコンタクトレンズをしている方で老眼になってくると面倒くさくなってきてやめてしまう方も多く見受けられます。
しかし、最近では「遠近両用コンタクトレンズ(以下CL)」という物があり、遠くから近くまではっきり見ることができるようになってきました。
はたして遠近両用CLの仕組みはどうなっているのでしょうか?
遠近両用CLはあの小さいコンタクトレンズの中に、遠くが見える度数と近くが見える度数が同心円状に並んでいます。そして、遠くにピントの合う光と近くにピントの合う光の二つの光が常時目に入ってくるのですが、遠くを見ようと思った時・近くを見ようと思った時、それぞれに目的の光情報を頭の中でピックアップして、いらない光情報を半分カットしています。それ故、逆にピントの合っていない光情報も、常に目の中に入っているためちょっとにじんだように感じられてしまいます。ですからレンズの大きな普通の眼鏡に比べて全てがすっきりというわけにもいかないのが実情です。それでも数日するとその見え方にも慣れてきて違和感が次第に消えていきます。
自分も初めて遠近両用CLに替えてみたときには、近くの文字がぐっと見やすくなり、診察の時も患者さんの目がよく見えるようになりました。
最近はゴルフをするのにスコアカードが見えない、老眼鏡をかけるのはファッション的に格好悪いので遠近両用CLを希望しますというような、50歳になってCLを初めて使う方も増えています。
スポーツでケガをした場合に気をつけるべきことは何でしょうか?
ちょっとした痛みでも自己判断は禁物です。
早期復帰のためにもスポーツドクターの受診を 骨折・肉離れ・靱帯損傷などのスポーツ外傷は、応急処置とその後の適切な治療、さらに早期からのリハビリテーションによってスポーツ活動へのよりスムーズで良好な復帰が可能となります。 また、使いすぎなど痛みを主症状とする慢性外傷(野球肘・ジャンパー膝・アキレス腱炎など)の予防には、筋肉の状態(張り・硬さなど)や自分の体の特徴(O脚・X脚・偏平足など)をよく知り、事前にそれらを修正する手段を講じることが重要です。 たとえば、シューズのヒールの外側が減っていませんか?
つま先立ちになった時、第2趾(人差指)ではなく外側の第5趾(小指)よりに体重がかかっていませんか?
これらに該当する場合、足関節を内がえしに捻りやすく、アキレス腱の外側にも痛みが出やすいといえます。
腓骨筋(スネの外側の筋肉)を強化するための外がえし運動やシューズのインソールの工夫、さらにテーピングで機能を補助しながらの正しい動きの学習をすることによって、よりよい状態でスポーツに参加できることでしょう。 スポーツの現場において、テーピングは広く用いられるようになり、ドラッグストアには以前に比べ、多くの種類の材料が並んでいます。
日常、よく経験する足関節靱帯損傷の場合、ギプス固定と松葉杖での安静期間を置くと筋肉がやせ細り、関節の可動域制限が著明で、スポーツ復帰に時間を要していました。
テーピングも当初はギプスに代わる固定手段の意味合いが大きかったようですが、必要以上の固定は、運動機能を低下させるだけでなく、逆にテープを早く緩ませてしまうため、近年では機能の補助として使用し、正常な関節運動を早期から学習させるのが主流となっています。
すなわち、損傷部にとって悪い動き(側方不安定性)は抑制し、足首の上下の動きは可能な限り許すことで、動きやすくかつ緩みにくい巻き方になっています。 いずれにしても自己判断は禁物で、ケガの発生機序を正しく見極めたうえでの治療が大切です。
肉離れの選手に指導者が筋肉がつったと判断し、ストレッチをしてしまい、断裂部を悪化させ、治療期間が長びいたケースがありました。
この場合、逆に筋肉を収縮させるトレーニングを行うべきです。
また、アキレス腱の痛みがあっても走っているうちに治ると思ってそのまま続け、日常の階段昇降や歩くのも大変になってしまったケースもあります。
この場合は、どこにどのような伸長ストレスが加わっているかを判断し、テーピングや足底板などで対応すべきです。
やはり自己判断せず、何か支障を来した時はスポーツドクターに相談することをお勧めします。
胃がんになりやすい人って?
漠然と「胃がんになったらどうしよう」と考えたことはありませんか?
最近、どの程度胃がんになりやすいかを検査できるようになりました。
胃がんリスク検診=ABC検診といいます(健康保険は対象外)。
現在、群馬県全域・東京都の一部の区で実地されています。
血液を調べて,胃がんの原因といわれるピロリ菌に感染しているかどうかと、胃の老化をペプシノーゲンⅠ・Ⅱという物質で検査します。
A群:ピロリ菌もいない・胃の老化もない状態。この場合ほとんど胃がんの発生がありません。
B群:ピロリ菌がいるけれど、胃の老化は始まっていない。この場合1000人に1人の割合で胃がんの発生があるといわれます。
C群:ピロリ菌がいて、胃が老化しているものでは、400人に1人。
D群:ピロリ菌が住めないくらい胃の老化が進んでいるものでは80人に1人と言われています。
この検診で胃がんリスクを考え、A群の方は5年に1度程度、B群は3年、C群は2~1年、D群は毎年胃カメラでの精密検査が推奨されています。
この検診結果から分かるように、基本的にピロリ菌に感染しているならば、まず除菌することが勧められます。
ただし、除菌治療は胃潰瘍や十二指腸潰瘍など健康保険で賄(まかな)えるものは限られており、自費で行われる方が多いのも事実です。
また、この検診でA群と診断されても実はピロリ菌に感染していた方も混入することもあったり、胃がん以外の悪性腫瘍(2%前後)、ピロリ菌の感染が背景に無い胃がんがごくわずかに存在することもあります。
この検診は、今胃がんになってるかどうかの判定ではありません。
あくまでも胃がんのなりやすさであり、結果を鵜呑みにすることなく、何か症状があったり不安であれば消化器科専門医に相談してくださいね。
乳幼児健康支援一時預り事業(病後児保育)
皆さんは子どもの病気が少し回復して保育園や幼稚園に出すのには忍びないが、勤務先からは出勤を要請された、あるいは子どもの病気のために休みが続いて解雇の心配がある、などのときにはどのようにされていますか?
一時保育やファミリーサポートはずいぶんと普及しましたが、病児あるいは病後児を原則受け入れてはくれません。
国はこのような状況のお子さんに対して、都道府県、市町村に働きかけ乳幼児健康支援一時預かり事業を行うように要請しています。厚生労働省の定義によれば、この事業は病気回復期にあり、医療機関による入院治療の必要はないが、安静の確保に配慮する必要がある集団保育が困難な保育所に通所している児童で、かつ、保護者の勤務の都合、傷病、事故、出産、冠婚葬祭など社会的に止むを得ない事由により家庭で育児を行うことが困難な児童が対象になり、病院や診療所が行う場合には病後児の他に病児も含めても差し支えないこと、保育園児以外でも対象にしてよいことなどを謳(うた)っています。
北海道では札幌に三ヶ所、函館市、旭川市にそれぞれ一ヶ所、病院の事業として設置されているほか、全部で九ヶ所でこの事業がすすめられています。北海道以外の都府県では地域の小児科の診療所が子育て支援の一環としてこの事業に取り組んでいるようです。
子どもを預けて仕事を始めても、保育園児など集団生活を余儀なくされているお子さんは、病気にかかって熱を出したり、嘔吐(おうと)をしたりということを止めることが出来ません。老人介護が介護保険の導入により、個人が対応するものから社会が対応することに変わったように、病気になってしまった子どもも親がみるべきものから、地域社会が一体となって支えていくものに変わっていかなければならないのでしょう。









