浅い褥瘡(じょくそう)と深い褥瘡(じょくそう)
褥瘡というのは「床ずれ」のことです。これは、寝たきりや、それに近い状態の患者さんに起こります。体が骨など人の体の硬い部分と寝具などの間に皮膚、脂肪、筋肉がはさまれて血液が流れなくなり、体の組織が死んでしまうことによってできてきます。
健康な人の場合は寝返りしたりするのでこのようなことは起こりません。
そして、組織のダメージの度合いによって褥瘡は深くなっていきます。
浅い褥瘡というのは、皮膚が赤くなっているだけのものや、水疱(すいほう)になっているもの、表皮だけが剥けた状態のものです。
このような褥瘡であれば、圧迫を避け、きちんと治療をすることで時間がかからずに治すことができます。
ただし、できたばかりの褥瘡は、赤くなっているだけのように見えても、実は深い褥瘡であるということもあり注意が必要です。
これは皮膚、脂肪、筋肉など組織の種類によってダメージに対する強さが違うために起こってくると考えられます。
圧迫によるダメージに一番弱いのは皮膚であり、次に筋肉、一番強いのが脂肪です。
圧迫されてすぐにダメージを受けるのは皮膚です。
でもそこで圧迫がなくなると、ダメージを負うのは皮膚だけで浅い褥瘡ですみます。
しかし、さらに圧迫が続くと次にダメージを負うのはもっとも深いところにある筋肉です。
その場合、はじめは外から見ると赤くなっているだけで浅い褥瘡のように見えます。
でも、2~3週間してくると皮膚は黒くなり褥瘡はさらに深くなってきます。
はじめは浅い褥瘡のように見えて、実は深い褥瘡であった、ということが起こります。
寝たきりやそれに近い患者さんの場合は、褥瘡のできやすい部位に注意をしてあげて、赤くなっていたりしたら、まずは圧迫を避けるなどの処置が必要になってきます。
在宅での褥瘡(じょくそう)治療
褥瘡というのは「床ずれ」のことです。寝たきりや、それに近い状態の患者さんの体が、ベッドや車いすなどによって圧迫されて起こります。近年、在宅医療の広がりとともに在宅で褥瘡を治療するケースも多くなっています。在宅での褥瘡の治療は、困難ではありますが、可能です。しかし、いくつかの条件はあります。
まず、全身の状態がよいことです。寝たきりであっても、栄養状態がよく、褥瘡を治す体力があることです。ある程度動けるような方の場合は、治る確率は格段に上昇します。
また、家族の方々の協力も不可欠です。毎日の治療はたいへんで、家族の方の負担は大きなものになります。しかし、家族の方の協力が強い場合には、褥瘡は良くなることが多いと感じています。
そして、どのような褥瘡であれば在宅でも治療は可能なのでしょうか。
大事なのは、炎症がないことです。炎症があると、熱が出たりして全身の状態が悪くなります。こうなると点滴などの治療が必要になってしまいます。
また、褥瘡の深さも重要です。浅い褥瘡であれば、適切に治療することによって比較的短時間で上皮化して(皮膚ができて)治っていきます。深い褥瘡の場合は壊死組織が付着している事も多く、このような壊死組織は外科的に除去しないと細菌の巣になってしまうこともあります。でも、壊死組織が適切に除去出来れば在宅でも治療は可能です。問題は初期の褥瘡です。浅い褥瘡も、深い褥瘡も初めは赤くなっているだけのことがあります。浅い褥瘡はそのまま赤みが取れてきます。でも、深い褥瘡は時間が経つにしたがって紫色になり、二週間くらい経つと黒くなってきます。黒い部分は皮膚が壊死してしまっているのです。
初期の褥瘡を深い褥瘡か浅い褥瘡か見極めることが大事です。
爪水虫(つめみずむし)も治る時代になりました
前回の「水虫」で反響が多かったので、今回は爪の水虫をとり上げました。爪水虫はその名の通り、爪に白癬菌(はくせんきん)という水虫と同じカビがついてしまった状態です。
爪は皮膚と違いツルツルして厚いので、塗り薬だけでは薬が爪に浸透せず、とても治りにくいのです。放置していると皮膚に感染したり、家族に感染してしまうこともあります。現在の爪水虫の内服薬は、爪の下の皮膚から薬が爪に浸透するので、とても効果が高く、70~80%の治癒が望めます。早い人では半年ほどできれいな爪になるので、今から飲み始めれば、夏にサンダルが裸足で履けるかもしれません。
ただし肝臓が悪い人や、相性が悪い薬を飲んでいると、内服できないこともありますので、皮膚科を受診の際には、これまでかかった病気や、現在内服中の薬を必ずお知らせ下さい。
今年こそ治しませんか、あなたの水虫
水虫は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種で、皮膚の一番外側の角質層に感染します。今回は水虫を早く、確実に治すコツをお話します。
1.自己診断をしない。皮膚科医は皮膚の角質を顕微鏡で見て、水虫であるかどうか診断し、皮膚の状態に合わせて外用薬を選択します。爪や硬い足底の水虫では内服を処方することもあります。
2.裸足で公共施設を利用した後は自宅で足を洗う。足の裏に白癬菌が24時間以上付着したままでいると感染してしまいます。
3.家族も一緒に治療する。自分だけ治療をしても、水虫の人がいると再感染してしまいます。
4.医師の指示に従い完治と診断されるまで外用を続ける。皮疹(ひしん)よりも広めに、そして症状が消失してから1~2カ月外用しないと完全に白癬菌はいなくなりません。
水虫の心配がある方は、皮膚科専門医を受診してみて下さい。
爪周囲の痛みと治療について
爪が皮膚に食い込んで痛くなったことはありませんか?今回は陥入爪(かんにゅうづめ)のお話です。
長い時間歩いたり、きつい靴をはいたりして、足の親指などが痛くなってきた。家に帰って靴を脱いで見てみると爪の角の部分が皮膚に食い込んで赤く腫れている。こんな時どうしますか?
爪切りで食い込んだ爪を切ると、すぐに痛みは解消するかもしれません。でも、ちょっと待って下さい! 足の指は、いつも下からの力を受けているので、きちんと爪で押さえられていないと、数日位で指先がだんだん盛り上がってきてしまうのです。そしてその盛り上がった皮膚に再び伸びてきた爪が食い込む。つまり、痛む→食い込んだ爪を切る→切った部分の指の皮膚が盛り上がる→爪に食い込む→痛む→爪を切る・・・という繰り返しで、だんだんこじれてきてしまい、皮膚に爪が深く食い込み、自分では切れなくなってしまうのです。
そこで、爪を切らずに痛みを取るための簡単な応急手当てをご紹介します。まず、粘着性の強めなばんそうこうを用意して、幅1センチ、長さ5センチ位に切ります。次に、ばんそうこうの端を爪が食い込んでいる部分の真横の皮膚に貼り、爪と皮膚を離す方向に引っ張りながら指に巻き付けるように貼っていきます(このとき強く引っ張りすぎると指の血のめぐりが悪くなることがあるので注意が必要です)。この手当てによって、爪と皮膚の間に隙間ができて、食い込みがゆるやかになり、痛みも解消されます。さらに、その隙間にガーゼを挟むやり方もあります。
しかし、それでも痛みや腫れが取れない場合は医療機関を受診して下さい。細菌感染を起こしていて、抗生物質が必要な場合があるからです。また以前は手術的な治療が主流でしたが、最近では人工爪やシリコンチューブを用いた、手術によらない方法で治る方も増えてきています。ですから、怖がらずに、お早めに御相談下さい。
光老化(ひかりろうか)
お年を重ねると、次第にお顔やお首にシミやシワが増えてきます。これは長い年月にわたって日光に当たり続けることによって起こってくる変化で、光老化といいます。
皮膚は日光を浴びると、褐色のメラニンという色素を作って有害な紫外線が体内に入ってくるのを防ごうとします。真夏の日射しを1時間浴びると、皮膚の細胞の遺伝子に百万個もの傷がつくといわれています。数日で大方の傷は元に戻りますが、治らないまま残った傷が増えると必要以上にメラニン色素が作られ続けてしまうようになります。35歳前後から目立ってくるシミなどは、このようにして出来ます。深部まで達する紫外線の作用が加わると、皮膚全体の張りが失われシワも出てきます。また、発ガンに関係する遺伝子に突然変異が起こると、皮膚ガンなどに発展する心配があります。
光老化を起こした皮膚は完全には元に戻りませんが、シミの種類によってはレーザー機器などで目立たなくすることが出来ます。レーザー機器には皮膚の中の特定の色を削っていく作用があるため、シミに対して有効なのです。さらにお顔全体が褐色調にくすんでいる方や、ニキビ痕が残っている方に有効なタイプの機器もあります。また皮膚ガンが疑われる場合には細胞検査を行い、適切な治療を速やかに行う必要があります。
これまで長年にわたり健康増進のための日光浴が勧められてきました。しかし現在では、紫外線による悪影響が皮膚の老化を早めることが分かってきました。光老化は毎日の生活の中でも、ちょっとした注意で随分と防ぐことができます。まず紫外線に当たる時間をなるべく少なくすることです。日中の外出時には日傘、帽子を着用し、短時間の外出でも日焼け止めを使用されることをお勧めします。これからの季節、陽気は良くなりますが、紫外線も増えてきます。屋外を散歩したりスポーツで汗を流すことは気持ちが良く、健康にもよいことですが、光老化には御注意下さい。
ステロイドについて
皮膚科の治療で切っても切り離せないもの、それは塗り薬です。そのなかでも重要なものはステロイド外用薬です。しかしこのステロイド外用薬は悪の代名詞のように言われ、その治療を拒否する方も少なくありません。今回はステロイド外用薬について少しお話致します。
ステロイドは副腎皮質ホルモンとも呼ばれ、副腎という臓器で作られます。血液によって常に体内を循環し、さまざまな臓器や細胞に働きかけ、身体にストレスが加わった時に体調を整える重要なホルモンです。炎症や免疫を抑える強い働きがあります。
このステロイドを人工的に化学合成したのが、ステロイド薬です。1949年の初めにアメリカの医師がリウマチの患者さんにステロイド薬のひとつであるコルチコステロイドを注射し、歩けなかった患者さんが歩けるようになったという劇的な効果が現れました。その後、喘息をはじめとするアレルギー性疾患、リウマチなどの自己免疫疾患などの多くの病気に使われるようになりました。1952年にはステロイドが皮膚疾患にも効果のあることが明らかになり、アメリカで外用薬が開発されました。
ステロイド外用薬に対する患者さんの最大の不安はその副作用でしょう。飲み薬や注射のステロイドを全身に長期にわたりかつ大量に使用すると、副腎機能が低下する、糖尿病を悪化させる、骨がもろくなる、風邪などの感染症にかかりやすくなるといった全身的な副作用が起こることがあります。その反面、ステロイド外用薬は血液を通さず直接患部に使用するため医師の適切な指示に従って使用すれば、全身的な副作用の心配はほとんどありません。
しかし、実際には、ステロイドの内服や注射による全身的な副作用と外用薬による局所的副作用が混同されているようです。
ステロイド外用薬を使用するにあたっては、その副作用を正確に把握する必要があります。どんな薬でもそうですが、用法・用量を守ることも大切です。
さらに、ステロイド外用薬を使用するにあたっては、その使用中止方法も重要です。短期間で治るものは、さほど問題ではありませんが、慢性に経過する病気の場合、症状が改善したからといって、いきなり、ステロイド外用薬を中止すると、すぐに悪くなることがあります。塗る回数を少しずつ減らし、ステロイド外用薬の強さを弱めていくというように、徐々に薬を止めるようにする必要があります。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)について
「掌蹠膿疱症」という病気をご存知でしょうか? 最近、ある芸能人がこの病気にかかったという話が、テレビや雑誌で取り上げられていましたので、この病名を耳にされた方も多いのではないでしょうか?
さてその症状は、手のひらと足の裏に、菌の関与がない、膿をもったブツブツ(無菌性膿疱=むきんせいのうほう)が出て、皮膚が赤くなったり(紅斑=こうはん)、皮が剥けたり(鱗屑・落屑=りんせつ・らくせつ)するというものです。そしてこれらの症状は、良くなったり悪くなったりを繰り返し、慢性的な経過をたどります。手のひらを「手掌(しゅしょう)」、足の裏を「足蹠(そくせき)」と呼ぶことからこの病名がついています。
この病気の原因は、はっきりとわかっていません。再発を繰り返す扁桃炎(へんとうえん)や虫歯・歯周炎、副鼻腔炎(ふくびくうえん)などの細菌感染との関連や金属アレルギーとの関連が指摘されていますが、現段階では確実とは言えません。しかし、扁桃腺の摘出や歯科金属の除去・変換といった歯科治療などで、症状が改善する方がいらっしゃるのも事実です。
一般的な治療は、外用療法になります。ステロイド外用薬やビタミンD3外用薬を使用します。時として内服治療を行う場合もあります。エトレチナートやシクロスポリンという薬を使用したり、ミノサイクリンという抗菌薬を服用したりすることもありますが、副作用の心配があり、その使用にあたっては慎重に検討する必要があります。ビチオンというビタミン剤や漢方薬の内服が有効な場合もあります。また病変部に紫外線のA波を照射する治療方法(PUVA=プーバ)もあり、良好な治療成績を挙げています。
「掌蹠膿疱症」は、水虫や手荒れと間違えられることがあります。治りづらい症状がある場合、一度皮膚科を受診してみてはかがでしょうか。
円形脱毛症
円形脱毛症は突然、円形に脱毛が起こる病気です。頭だけではなく、「毛」が存在する所なら、まゆ毛やまつ毛、ひげ、体毛など、どこにでも起こりえます。脱毛に先立って現れる病変や前兆はなく、かゆみや痛みといった自覚症状もありません。したがって、何らかの前兆があったり、自覚症状を伴ったりする場合は、別のタイプの脱毛かもしれませんし、他の病気を合併しているのかもしれません。円形脱毛症は皮膚科を受診される方の二~五%の割合をしめます。また一生を通じて円形脱毛症が発症する確率は一~二%と推測されています。
患者さんの一〇~三〇%の方に家族内発症があるといわれています。アトピー性疾患や染色体異常のダウン症候群における脱毛症の合併率の高さや一卵性双生児における、脱毛発症の一致率の高さから遺伝の関与があることは確かです。しかし、この円形脱毛症は、その原因がいまだに、はっきりとしていません。以前から円形脱毛症と精神的ストレスの関連が指摘されていましたが、確かな証拠はありません。ただ、ストレスと脱毛を関連づける実験結果が一昨年に報告されていますので、その因果関係を否定することはできません。精神的ストレス以上に、原因として有力なのが、自己免疫の異常です。病原菌などから身を守るための免疫機能が、その矛先を自分自身に向けてしまっているのではないかと考えられています。つまり、自分の持っている免疫力が毛を構成する組織を攻撃しているのかもしれないのです。
治療は古くから行われている内服治療や外用治療の他、ステロイド内服・外用・病変局所への注射治療、紫外線照射治療、液体窒素による冷却療法、局所免疫療法など様々です。症状に応じて、その治療方法を選択しますが、中には治癒が困難な場合があります。さらに、いったん治癒しても再発する場合もあります。いずれにせよ、脱毛に気付かれたら、皮膚科を受診してみて下さい。
カサカサ肌になりやすい季節を前に
暑い夏もようやく終わり、秋の気配が次第に色濃くなってきました。季節の移り変わりとともに、皮膚も変化していきます。
これからの時期は、手や足、すねなどの皮膚が乾燥でカサカサし、白い粉をふいたような状態になりやすくなります。皆さんのお肌はどうですか?
皮膚のうるおいは、次の三つの要素で決まります。それは、
(1)毛穴から分泌される皮脂(ひし)によって形成される、皮脂膜(ひしまく)
(2)皮膚の表面に存在する角質細胞(かくしつさいぼう)の間に存在する、角質細胞間脂質(セラミドなど)
(3)角質細胞内に存在する、天然保湿因子(アミノ酸など)
です。これらの三つの要素の働きで、皮膚のうるおいは保たれるのですが、その成分が減少すると、皮膚の乾燥が起こります。この状態が長く続くと、皮膚の表面がひび割れを起こします。乾燥した皮膚は非常に敏感で、かゆみや炎症を起こし湿疹になっていきます。また、かゆみによる「引っ掻く」行為はその症状を更に悪化させます。
では、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?
ポイントは、皮膚を清潔に保ちながら、乾燥を防ぐケアをしていくことです。具体的には、長湯と熱いお湯での入浴を避ける。硫黄成分の入った入浴剤は使用しない。石鹸の使いすぎ、洗いすぎを避ける。ゴシゴシこする行為、ナイロンタオルの使用を控える。入浴後に保湿剤を塗る。肌着は刺激の少ない木綿製のものを使用する。室内の湿度を調節する(加湿器や濡れタオルなどを使用)。爪を短く切り、引っ掻かないようにする。飲酒や香辛料はかゆみを助長するので、控えめにする、などがあげられます。特に、お風呂に入るときにこすらなければ気持ちが悪いとか、お風呂に入った気がしないとおっしゃる方が多いのですが、ゴシゴシこする行為はいたずらに皮膚を傷つけ、皮膚の乾燥を強くするだけではなく、外部からの異物(細菌やウィルスなどを含めて)の侵入を許すことにもなりかねません。注意して下さい。普段の生活で、以上のことを実践しても、かゆみが強く、湿疹になってしまう場合は早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。