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脳動脈瘤の自然歴

脳神経外科2012/09/24

 病気の「自然歴」とは、その病気を放っておいたらどうなるかということです。
病気は、何でもかんでも治療するわけではなく、自然に治るものや、治らなくても生活に支障なく、寿命を全うできると思われるものもあります。
一方、治療にも危険が伴うことがありますので、放っておいた場合の危険と、治療に伴う危険とを天秤にかけて治療するかどうかの判断をします。

 脳動脈瘤は破れると半数の方が命を落とすとも言われる恐ろしい病気です。
また命が助かっても、多くの方が障害を残します。
その恐ろしさ故に、かつては検査で偶然見つけた動脈瘤に対して、積極的に手術する傾向がありました。
しかし、治療には危険が伴いますから、そのような姿勢に対する批判の声も多数ありました。
また、MRIなどの診断機器の発達に伴い、動脈瘤が発見されることが増えてくる一方で、昔から動脈瘤の自然歴が不明でした。
そうした中、1998年に発表された欧米の研究結果では、脳動脈瘤の破裂の危険性が、年率0.05%と予想外に低かったため、大変な議論となりました。
そこで日本脳神経外科学会が中心となって、2001年から新しく研究を開始しました。
その研究結果が、つい最近発表されました。
全体としての破裂リスクは年率1%程度と、実際に破裂脳動脈瘤を扱っている脳外科医の実感と一致する結果でした。
さらに動脈瘤の場所や大きさ、形による危険性の違いも示されました。

 これまで脳ドックなどで動脈瘤が見つかった場合、治療をどうするか相談するのに、しっかりした根拠に基づくデータがなかったために、脳外科医も困っていました。
今回の研究方法には、まだまだ議論の余地があります。
しかし、その判断を下すための材料として、今までの研究報告よりもしっかりとした根拠が示されたものと考えます。

 個々の患者さんについては、個別の状況から治療方針を決めなければなりませんが、医師として、患者さんに説明するとき、これまでよりも自信をもってお話ができるようになりました。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2012年9月24日 「北海道新聞夕刊」掲載)

長生きの秘訣

脳神経外科2012/03/26

百歳以上の方を百寿者と呼びますが、日本におけるその数は、1990年には4千人程でした。
当時、老年医学が専門の友人から「百寿者は、生まれつき(遺伝的に)強い人で、長寿の研究には適当でない」と聞きました。
その後2000年にはおよそ1万5千人、2011年9月には、4万7千人に達しました。
たった20年の間に、遺伝的に強い人たちが4万人以上も増えたのでしょうか?
長寿に対する遺伝の関与は30%程度と言われます。
したがって、寿命の伸びは、遺伝子以外の要素の影響が大きいということです。
生活環境として、紛争や戦争がなく平和であること、大きな災害がないことは勿論大切です。
ちなみに、第二次世界大戦直後の百寿者は四百人程でした。
もっとも重要な要素は、国民の保健衛生に対する関心の高まりと、医学・医療技術の進歩の貢献が大きいと考えます。

百寿者の統計データを教えてくださった先生は、長寿を100m走にたとえておられました。
かつて10秒を切ることは夢のようでしたが、10秒の壁を破った後も記録は少しずつ伸び続けています。
この伸びには選手の素質だけでなく、シューズやトラックなどの道具の改良、科学的なトレーニングの成果も大きく貢献しています。

人間の寿命も、まだ伸びると予想されています。
百寿者の研究から長寿の秘訣は見つけられていません。
しかし、105歳以上の方たちの特徴から、「よく食べ、風邪をひかない」という共通点が発見されました。
簡単なようですが、食べるためには、日頃から歯磨きを欠かさず、丈夫な歯を保つことが必要です。
風邪をひかないために、手洗いとうがいの習慣も大事です。

結局、「これをやれば大丈夫」という便利な話はありません。
100m走の選手と同じで、自ら毎日努力することが必要です。
人生は、100m走よりマラソンと言うべきかもしれません。
コーチ(医師)の助言を聞き、道具(先進医療技術)を上手に利用して、人生マラソンを完走しましょう。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2012年3月26日 「北海道新聞夕刊」掲載)

人に迷惑をかけないということ

脳神経外科2011/09/26

 患者さん達との会話で「子供たちに迷惑をかけたくない」というセリフをよく聞きます。
年を取り、病気になると人の手を借りる場面が多くなります。
そんな時、「迷惑をかけて申し訳ない」と思うのでしょう。プライドの問題として、心情は理解できますが、その言葉をそのまま認めてはいけないと思います。
おそらく世界中、どこの国の子供でも「人に迷惑をかけないように」と教えられると思います。
しかし、この場合の「迷惑」とは、例えばバスや電車の座席に靴のまま上がるなとか、場所をわきまえずに大声を出すなとかといった、社会生活のルールを教える言葉だと思います。
子供やお年寄り、あるいは病気やけがで困っている人に手を貸す時、「迷惑した」と思う人はいないでしょう。
子育てをするとき、女性は仕事を諦めることもあるでしょうが、それで子供に迷惑をかけられたとは思わないでしょう。
誰でも、小さい時には年長者に世話をしてもらい、自分が大きくなったら年少者や病者、弱者に手を差し伸べるというのは、自然なサイクルではないでしょうか?
助けてもらって、感謝するのは当たり前ですが、申し訳ないと思う必要はないでしょう。 将来、平均寿命が90歳代まで延びるという話があります。
その時、高齢者における認知症の割合は60%にも及ぶといいます。
独り暮らしの方も増えるでしょう。
その状況では、1人の高齢者を4、5人で支えなければならないともいわれます。
こんな将来を考えた時、年老いて体が弱って助けを借りることが、「迷惑をかける」ことだとしたら、生きることが悲しくなってしまいます。
困った人には喜んで手を貸し、弱った時には助けられて感謝する、そういうことが自然にできる世の中であってほしいと思います。 実は、認知症で大きな問題になる妄想は「人助けはするが、助けられるのは苦手な(プライドが高すぎる)人」に生じやすいといわれています。
「情けは人のためならず」と言いますが、もう一度、考えてみませんか?


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2011年9月26日 「北海道新聞夕刊」掲載)

妄想のケア

脳神経外科2011/03/17

ある英国の作家が「若いとは、お金がないことを気にしないことだ」と言いました。
では「老いとは、お金が無くなることが心配になること」でしょうか。
時々、物盗られ妄想の相談を受けますが、身近な介護者に向かう攻撃的な物盗られ妄想に家族は弱ります。
精神科の外来治療だけでは、薬に頼った結果、副作用で事態が悪化することもあります。
今回は、具体的な対処方法ではなく、本から得た妄想への対応の原則を紹介します。
認知症の初期は、記憶障害が中心ですが、妄想などの周辺症状も出てきます。
この妄想の根源は「喪失感」にあるといわれます。
妄想は段階的に出るのではなく、何かしらの出来事をキッカケに急に生じます。
人生には、親しい人との別れや生活環境の変化、病気や怪我はつきものです。
「人の世話はするが、されるのは苦手な」人は、別れや環境変化、体の不調などを喪失感に結びつけがちです。
共通するのは、老いや病気、助けを借りることを上手く受け入れられないことです。
それまでのように、困難を自力で乗り切れず、面倒を見られるという予想外の現実に、不安や恐怖を感じた結果、物盗られ妄想という表現に
なると考えられます。
妄想は誰にでも生じうるもので、このような性格の人達だけの問題ではありません。
周辺症状は、認知症患者さんの生き方とその人が置かれた状況が絡み合って生じます。
つまり、家庭環境や、老いを排除し、病気になって人の手を借りる、病んだ人に手を貸すことが当たり前ではない社会の姿も背景にあります。認知症のケアでは、妄想の元である喪失感を埋めるため、その人が「出来なくなったこと」は要求せず、「出来ること」を積極的にやってもらうことが有効だといいます。
また、攻撃性を家族が受け止めるのは難しいので、第3者のケアスタッフが間に入る方がいいでしょう。
病気の介護や、生活の援助に、他人が介入することに抵抗感があるものですが、介護サービスの利用にはこういう意味もあります。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2011年3月 「」掲載)

顔面けいれんと三叉(さんさ)神経痛

脳神経外科2010/09/27

患者さんから時々耳にする言葉に「顔面神経痛」というのがあります。
昔のことは知りませんが、少なくとも私が脳外科を学び始めてからは、正式名称として、このような病気は聞いたことがありません。
一方、顔面けいれん(正しくは半側顔面けいれん)と三叉神経痛という病気があります(さらに紛らわしいものに、顔面神経麻痺というのもあります)。
おそらく、顔面神経痛という言葉は、これらの言葉が混同されて広まったのではないかと考えます。
今回は顔面けいれんと三叉神経痛についてお話します。顔面けいれんは、自分の意志とは関係なく、顔がピクピクとけいれんする病気です。
三叉神経痛は顔が痛くなる病気で、歯科治療のとき、歯の神経に触られた時の刺すような鋭い痛みが、顔に生じます。
顔面けいれんと三叉神経痛は、症状は違いますが、症状が出るメカニズムは似ています。
基本的にはどちらも、頭の中で顔面神経、三叉神経それぞれの神経を血管が圧迫しているために、刺激を受けて勝手に顔がピクついたり、顔が痛くなったりするのです。
したがって、根本的な治療は、手術でこれらの神経と血管の接触を離してやることになります。
しかし、どちらの病気も命を脅かすものではありませんので、頭の手術をためらう患者さんも多くいらっしゃいます。
そこで代わりの治療法として、飲み薬によるものや、放射線照射、注射による方法などがあります。それぞれの治療方法には長所と短所がありますので、どの治療法を選ぶかは、お医者さんと相談するとよいでしょう。
命に危険がない病気といいましたが、顔のけいれんは外見に影響するために、社会生活に大きな影響がありますし、三叉神経痛は、「歯の痛み」と同じ(歯の神経も三叉神経です)ですので、どんなに辛い痛みであるかは、すぐに想像できます。
ごく稀に脳腫瘍が原因となることもありますので、まずは脳外科でキチンと診断を受けることが治療の第一歩です。
つらい症状を我慢しないで脳外科に相談してください。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2010年9月27日 「北海道新聞夕刊」掲載)

認知症の早期発見、早期治療

脳神経外科2010/03/29

どんな病気も早く、軽いうちに治療する方がいいに決まっています。
ですが、最近、認知症を「早期に発見する」難しさを痛感しています。病気の診断には、まず医療機関で診察してもらう必要があります。
ところが、誰だって「認知症」と宣告されたくありません。
だから、患者さん本人も、その御家族もなかなか医療機関に行く決心はつきません。
症状の軽いうちは、本人は「何ともない」と思っているので(病気の自覚がなく)、家族に受診を勧められても拒否します。
家族は家族で、おかしいと思いながらも「年のせいだろう」と考えたりします。
結局、多くの場合、病院や診療所にやってきたときには病気は進んでしまっています。MRIをはじめとする画像検査など、認知症の診断方法も進歩しています。
また、ご存知でしょうが、認知症の中には「正常圧水頭症」のように手術で治るものもあります。アルツハイマー病を治す方法はまだ確立されていません。
昔は、医師でさえも「どうせ治せないのだから、病院にかかるのは無駄だ」と考える人が少なくありませんでした。
しかし、現在では、「根治」はできなくても、進行を遅らせる薬があります。
さらに、新しい薬が続々と承認申請されています。
ワクチンなども研究されています。
今は治せなくとも、数年先には全く新しい治療方法が出現する可能性も十分あります。
「進行を遅らせる」ことは無意味ではありません。治らないと諦めず、また、今は治せない病気だからこそ、早期発見早期治療が重要だと考えます。
是非、「怪しい」あるいは「不安」だと思った時には、医療機関にご相談いただきたいと思います。「上医治未病」。これは中国の古くからの言葉だそうです。
「上医」とは良いお医者さんの意味で、「良い医師は、病気になる前に治す」という意味と聞きました。
「上医」にはまだなれませんが、何とか出来るだけ早く病気を見つけて治したいと、日々考えています。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2010年3月29日 「北海道新聞夕刊」掲載)

逃げるが勝ち

脳神経外科2009/10/16

 皆さんは「率先避難者」という言葉をご存知でしょうか。
災害時などに住民に避難してもらうには、役場の係員がスピーカーで呼びかけるだけでは効果がないそうです。
人は隣近所の様子を見てから行動することが多いからです。
ある海岸の町では、地震直後の津波警報の呼び掛けに避難したのは住民の二割だったそうです。
子供が両親に「逃げよう」と言っても、大人達は近所の様子見を決め込み、動かなかったのです。
この状況を変えるため、地域に「率先避難者」という係を置こうとしているそうです。
この人達は、避難を呼びかけたら誰よりも先に自ら避難することを任務とします。
この人達の逃げる姿を見た人達は、我も我もと逃げるようになったといいます。
また、避難後に津波が来なくても「逃げなくてもよかった」と後悔することはなくて、「何もなくてよかった」と思うそうです。

 病気予防に当てはめてみます。
生活習慣病を持った人や、自分の健康状態に不安を持っている人は大勢います。
この人達は生活習慣を変えなきゃいけない、健康診断も受けてみたいとは思っています。
でも、なかなか実行しません。そんな人達に「スピーカーで避難を呼びかけている」のが、保健や医療の仕事をしている人達、夫や子供の体を心配している奥さん、お母さん達です(多くの男性患者さんは、自分の意志よりも奥さんに言われてシブシブ健診を受けています)。
この状況を変える為、奥さんお母さん達が「率先避難者」になってはどうでしょう。
家族や隣人に生活改善を注意するより、まずは自分の健康維持に努める姿を見せるのです。

 先の津波避難の例では、現在、子供たちへの指導は、両親に「一緒に逃げよう」というのではなく、まず自分が逃げ出すことを勧めているそうです。
逃げる子供を一人にしておけませんから、大人も避難することになります。

 この夏初めて、人間ドックを受けました。
医師も、自らの健康に気をつけなくてはと思ったからです。
幸い、やや太めである以外はほぼ異常なしという結果で安心しました。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税( 2009年9月28日 「北海道新聞夕刊」掲載)

『めまい』を考える

脳神経外科2009/03/18

 「めまい」は医者泣かせの症状です。他覚的には、「眼振」という特徴的な目の動きやふらつく姿も見られず、自覚症状だけのこともあり、原因がわからないこともしばしばです。今回は、この厄介な「めまい」を考えます。

 「めまい」とは、体のバランスをとる働きの不調と表現できるでしょう。
体の傾きや動きを感じるには、「視覚(物を見る)」「平衡感覚(耳の奥にある三半規管などによる)」「深部感覚(筋肉や、関節からの感覚)」、これらの感覚を脳に伝える「神経経路」、そして最終的に全ての情報を統合する「脳」が関わっています。このどこに障害が起きても「めまい」が生じます。

 しかし、「深部感覚」や「神経経路」の障害による「めまい」は、注目されることが少ないような気がします。
医師からでさえ、「首や腰、膝や足の病気でめまいなど起きない」と言われることが多いのですが、耳や脳を検査して「異常なし」とされた「めまい」の患者さんの中には、頸椎や腰椎に原因が疑われる方がいらっしゃいます。

 偉い先生の書いた「めまい」についての分厚い本にも、背骨を支えている筋肉の感覚異常から「めまい」が生じることが書かれています。
体の重心を支えている関節や筋肉に異常があれば、ふらつくのは当然です。頸椎や腰椎に病気があれば、その両脇の筋肉に負担がかかることも納得できます。
さらに、糖尿病でも末梢神経障害が生じることがありますが、このとき「平らなところを歩いていても、砂利の上を歩いているみたい」と表現されることがあります。
こんなときも「めまい」という自覚症状となることがあります。

 「めまい」は強い恐怖を感じるものです。実際、脳卒中の場合は命の危険もあります。
頸椎、腰椎の病気や末梢神経障害の場合、比較的「めまい」が軽い印象がありますが、不快なことに変わりません。
耳や脳に異常が見つからないとき、頸椎・腰椎などの脊椎や末梢神経の障害を疑うことも必要でしょう。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税(  「」掲載)

MRI検査の安全性

脳神経外科2008/09/19

 先日、ある患者さんから「MRIやCTは、放射線を浴びるから、何度も受けちゃ駄目だと友達に言われた」という話を聞きました。
MRI検査が導入されて20年を過ぎた今でもこんな風に思われているのかと少し驚きましたが、医療機関で検査を受けるときに不安になるのは当たり前でしょう。そこで今回は、MRI検査の安全性について、簡単にご説明します。

 レントゲン撮影やCT検査で使われるX線も、MRI検査で使われるラジオ波も、電磁波の一種です。
この電磁波のエネルギーは、その周波数にプランク定数という数字を掛け合わせたものになります。
現在、多くの病院で使われている超伝導のMRI装置で使われるラジオ波の周波数は60数MHz(メガヘルツ)です。
これはラジオのFM放送と同じ位です。一方、X線の周波数はその1千億倍にもなります。
つまり、MRI装置の電磁波エネルギーは、X線の1千億分の1ほどで、検査による健康被害の心配はないと考えられています。

 MRIは、日本語で「磁気共鳴イメージング」といい、字の通り磁気(磁石)を使います。そのため、金属には要注意です。例えば、鉄製のものは検査装置に人間の力では取れないほど強力にくっついてしまいます。
また、金属の種類によっては検査中に熱を発する可能性もあります。
このため、検査前に体内に金属がないかどうか、あるのならどんな種類のものかを確かめます。
入れ墨やアイライナーなどの化粧品にも金属が含まれているため注意が必要です。稀に「熱い」と感じることがあるようです(ヤケドの心配はないと思いますが)。
さらに、強力な磁気のため、クレジットカードなどの磁気カードを検査室に持ち込むとそのカードのデータは壊れてしまいます。
携帯電話もいけません。最後に、妊娠初期の胎児はデリケートな上に胎児への影響は不明なため、妊娠中の検査は慎重にと勧められています。

 このように物理学的影響は色々ありますが、注意点を守っていれば、極めて安全な検査ですのでご安心ください。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税(  「」掲載)

脳を鍛える

脳神経外科2008/08/13

 入試が終わり、新たな学生生活に希望を膨らませている方、再度挑戦しようという方、さまざまな決意の方々がいらっしゃるでしょう。さて、学生でなくても、最近は衰えがちな「脳力」を何とか維持しようと、大勢の方が「脳を鍛える」ことに関心を抱いておられます。
はたして「脳を鍛える」とはどういうことでしょうか?

 リハビリテーション(以下、リハビリと言います)の観点から脳を鍛えるということを考えてみます。事故や病気の後遺症で、手足の運動機能などには問題がなくても、記憶力が低下したため仕事ができないとか、感情の抑制が出来なくて他人とうまく付き合えない方たちがいます。このような状態(高次脳機能障害といいます)に対する記憶のリハビリの要点を紹介します。

  1. 環境を整える : 記憶には高い集中力が必要で、多くの人には静かな環境が大切です。一部の人では、音楽などが聞こえたほうが集中できることもあります。
  2. いろいろな方法を使う : 記憶を助けるためには、言って聞かせるだけではなく、書いたものを持たせる、本人に復唱させる、自分でメモを書き取らせる、あるいはレコーダーなどで声による指示が聞けるようにします。
  3. 繰り返し伝える : このような色々な方法を使った上に、それらを繰り返すことが重要です。
  4. 簡単なものから始める : 初めから難しいことに挑戦せず、簡単なことをできるように努力します。
  5. 複雑な仕事も、手順を分けて一つずつ進める : 一連の仕事を一気にさせるのではなく、段階を一つずつ踏んでいきます。

 これらをご覧になって何か気がつきませんか?
当たり前のことだと思われたでしょうか?

 これらは勉強や楽器の練習、スポーツのトレーニングなどと全く同じだということに気がついたでしょうか?

 勉強もスポーツも、環境を整え、簡単な課題から難しい課題へと進み、色々な方法を用いながら、繰り返すことで身についていきます。結局、現代までの人類の歴史の中で当たり前と思われる、これらの方法以外に「脳を鍛える」方法は見出されなかったのです。


Text by 函館西部脳神経クリニック 小保内 主税(  「」掲載)

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