再生医療とリハビリテーション
京都大学山中教授のノーベル賞受賞以来、iPS細胞による再生医療に対する期待が高まっています。
一部の病気で臨床試験が間もなく開始されるという報道もあり、いよいよ現実味が出て来ました。
こうした状況を受けて、患者さんの中には「もうすぐ再生医療が実用化されて、自分の脳卒中後遺症は細胞を移植すれば治る。だから、リハビリなんか止める」という人が出て来ました。
果たして、iPS細胞から作った神経細胞(正しくは神経幹細胞)を移植すれば、脳の病気は何でも治るのでしょうか? リハビリは不要になるのでしょうか?
答えは「ノー」です。
脳は、よくコンピューターに例えられます。
脳卒中で脳が大きく壊れた時、これに再生医療技術を用いるのは、いわば、パソコンを「リカバリー」して、買ってきた時の状態に戻すことに似ています。
実際には、買ってきたパソコンは色々なプログラムが入って、初めて使えるようになります。
例えば、脳梗塞で脳の一部が障害された状況を思い浮かべます。
病気の範囲が小さくて、パソコンでいえば「回路の一部が切れた」程度ならば、細胞移植だけで回復する可能性は大きいでしょう。
しかし、病気に侵された範囲が広い場合、事は簡単ではありません。
神経回路が回復しても、それまでの人生で身に付けたこと(プログラム)は、もう一度脳に覚えさせなければなりません。
別の例えで言えば、体が自動車で、脳がドライバーだとします。
ドライバーが病気になったなら、ドライバーを交代させれば良いはずですが、交代ドライバーとして移植された細胞は、まだ運転の仕方を知らない子供のようなものです。
手足は自在に動かせますが、運転操作は練習で身につけなければなりません。
この練習こそ、リハビリテーションです。
残念ながら、再生医療が実現しても、何の努力もなしに元通りになるということは期待しない方がいいでしょう。
むしろ、リハビリは益々重要になってくると思われます。
咳でおこまりではないですか?
咳は長引くとつらい症状です。
友人とおしゃべりをしていてもしゃべろうとすると咳こんでしまうとか、授業中や演奏会の最中に咳が出て止まらず退席を余儀なくさせられるとか。
経験のある方もいらっしゃると思います。
咳をひき起こしている原因疾患を診断し、治療していくためには症状の持続期間が重要な手掛かりのひとつになります。
咳がではじめてから3週間以内のものを「急性の咳」、3~8週間ものを「遷延性の咳」、8週間以上を「慢性の咳」と定義されています。
「急性の咳」の多くは風邪などの急性の呼吸器感染症が原因です(ただしマイコプラズマ感染や百日咳感染ですと咳は長引きやすい傾向があります)。
持続時間が長くなればなるほど、原因に急性感染症が占める割合は少なくなってきて、8週間以上続く「慢性の嗽」では急性感染症以外の原因があると考えられています。
長引く咳の主な原因疾患はアトピー咳嗽・感染後咳嗽・咳喘息・気管支喘息・薬の副作用の咳・胃食道逆流症(逆流性食道炎)・喉頭アレルギー・間質性肺炎・心因性咳嗽・肺結核・副鼻腔炎・気管支拡張症・肺癌・肺気腫など多岐にわたります。
たとえばエアコンの風や冷たい飲食物・会話などで誘発され喉がイガイガする咳はアトピー咳嗽であることが多く、風邪の後に咳だけが残ってしまう時は感染後咳嗽を疑います。
また、ぜろぜろする感じを伴う場合は気管支喘息や副鼻腔気管支症候群・肺気腫などを第一に疑います。
体力の消耗が著しい場合は結核や癌・間質性肺炎なども疑われます。
一部の降圧薬・漢方薬・免疫抑制薬などの副作用でも咳が出ることがあります。
呼吸器内科医は患者さんの自覚症状・聴診所見・レントゲン所見・全身状態など詳細に観察し咳の原因を突き止めそれぞれの病態にみあった治療をおこなっていきます。
しつこい咳は専門家に相談しましょう。
高度近視と視力検査
「私、目が悪いから視力は測りたくない」という患者さんが時々いらっしゃいます。
そういう患者さんの多くは「高度近視」の方です。
高度近視は強い度の近視のことで、確かに裸眼視力は良くありません(例えば0.04、0.05など)。
しかし、裸眼視力が悪くても矯正視力がしっかり出れば視力に関して“目が悪い”ということにはなりません。
矯正視力はその人の物を見る最良視力値であり、矯正視力=視力という考え方が眼科では一般的です。
但し、高度近視の人は眼球の作りが大きく、そのため、目の奥の膜が萎縮していたり、薄かったりと正常な目の大きさの人に比べ病気になるリスクが高くなります。
矯正視力の低下は何かの病気のサインかもしれません。
眼科でしっかり視力検査をうけ、自分の矯正視力を知っておくことも、目を守る大切なことなのです。
歯科における無痛治療について!
歯科治療を受けた経験のある方にとって、歯科治療中の痛みは「イヤ」なもので、歯科へ行こうと思っても、痛みを思い出すと足が向かない原因の一つでもあります。
現在、麻酔液の進歩や良い抗菌薬のおかげもあり、麻酔を行うことによって、痛みをほぼ感じずに治療できます。
しかし、その麻酔の注射自体が「痛い、怖い」という声を良く耳にします。
ここでは、痛みの少ない麻酔注射方法についてご紹介いたします。
①表面麻酔の使用(注射の前に、軟膏の様な物を1分くらい置くことで、除痛できます)
②麻酔液を適温に温める(体温近くまで温めることで、除痛できます)
③細い注射針の使用
④電動麻酔注入器の使用(麻酔液の注入する圧を軽減でき除痛できます)
現代の歯科医院では、このように痛みが少なく、患者様が楽に麻酔できるように、種々の努力をしています。
ただ、今後行われる治療の説明など、医師と患者様とのコミュニケーションが良好なことが安心した治療を受けられる要因の一つでもあります。
歯科医院でも説明の努力はしていますが、何か不明な点や疑問点などあれば先生やスタッフに聞いて頂き安心した治療を受けて頂くのをお勧めいたします。
咽頭癌〜女性患者の増加が懸念されます〜
我が国の三大死因は癌、心疾患、脳血管疾患ですが癌は最多の30%を占めます。
癌は怖い病気ですが、十分な知識を持ち対処すれば根治も可能な病気です。
頭頸部癌は全癌の約5%を占めます。
癌患者数は300万人を超えると推定されていますので、約15万人の患者さんがいることになります。
頭頸部癌には舌癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、上顎癌、唾液腺癌、甲状腺癌などがあります。
今回は頭頸部癌の中でも早期発見で十分治癒が望める喉頭癌についてお話しします。
1年間に喉頭癌で亡くなられる患者数は約1,000人で、男女比は9:1で男性に圧倒的に多い癌です。
発癌の大きな要因は、喫煙で非喫煙者に対し喫煙者は100倍、喉頭癌になりやすいと言われています。
喉頭癌患者さんの平均的な喫煙歴は1日30本以上、30~40年です。
禁煙区域の拡大、分煙環境の整備が進み全体の喫煙率は低下傾向ですが、それは主に男性の喫煙率の低下で女性の喫煙率は増加傾向がうかがわれますので、今後,女性患者の増加は懸念されます。
道南はまだ喫煙率が男女ともに率が男女ともに高い地域ですので、喉頭癌に十分な知識を持つことは重要です。
喉頭癌の初期症状で最も多いのは声のかすれで改善しない場合は、ためらわず耳鼻咽喉科を受診すべきです。
喉頭癌のほとんどは扁平上皮癌という癌で放射線がよく効きます。
早期癌であれば放射線療法のみで80~90%で治癒が望めますし、声のかすれも改善します。
放置した場合には、最終的には呼吸困難に陥ります。
進行癌になってしまうと放射線療法のみでは治癒は望めなくなりますので、抗癌剤による化学療法や手術をさらに追加し組み合わせて治療をすることになります。
手術は喉頭全摘出術、永久気管孔造設術を基本的に行いますので、声は失われます。
進行癌になっても頭頸部癌の中では最も治療成績はよいのですが、癌になってしまうと治療のために2~3ヶ月の入院を強いられ、声を失うという機能障害を残す可能性があるわけですから、やはり予防が大切です。
禁煙したその日から発癌の危険性は低下しますので、是非とも禁煙をおすすめします。
人工歯根(デジタルインプラント)について
インプラントとは医療目的として体に埋め込む器具のことをインプラントとよびます。
体の骨にひびが入ったり、骨折をした際に骨を支えるため使用するボルトやリウマチなどで曲がった骨を正常の位置に戻す際に使用するボルトがあります。
歯科で使用されるデンタルインプラントの素材としては、ほとんどのメーカーでチタンが採用され、チタンの性質として金属アレルギーがでにくく、身体に対して有害な作用を及ぼしにくく海水や酸に対して高い耐蝕性を示しているため、心臓のペースメーカーや、人工関節などで使用されている素材なのです。
デンタルインプラントの特徴としては、失った歯の部分にチタン製のデンタルインプラントを埋め入れて、歯本来の機能や見た目を取り戻す治療法のことをいいます。
失った歯の部分を治療しますので、周囲の歯に負担をかけることがなくこれまであった歯と同じような役割を果たしますので噛む力を分散させ、残っている自分の歯を守ることにもなります。
入れ歯のように噛む力が健康な状態に比べて20%程度に落ちたり、ブリッジの様に健康な歯を削る必要もありません。
しかしデンタルインプラントもデメリットがあり、インプラントを埋め入れる外科手術を伴うことや、他の治療に比べて治療期間が長いこと、保険が適用されないため費用の負担が大きいなどがあります。
また手術を受けるのに困難な方もいて、インプラントを埋め込んだ部分は骨の成長が妨げられるため、成長過程にあるかたはインプラント治療が出来ません。
また免疫力が著しく低下している方や、高度の糖尿病の方、一部の骨粗鬆症の薬を服用している方も困難な場合があります。
インプラント治療の利点と欠点を理解した上で治療法を選択することをおすすめします。
インプラント治療にご興味がある方は歯科医院にて相談を受けてみることをお勧めします。
胃がん撲滅元年
今年は胃がん診療に大きな動きが2つあり胃がん撲滅元年ともいわれています。
1つ目はヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)診療の保険適応の拡大です。
ピロリ菌は胃の中に住んでいる細菌で、もともとは胃・十二指腸潰瘍の原因菌として発見されました。
その後は血液の病気など多様な病気の原因でもあることが明らかとなり、保険で治療できる病気の種類は増えています。
そんな中、今年の2月には慢性胃炎でもピロリ菌の保険診療が認可となりました。
ピロリ菌は慢性胃炎を引き起こしてそこから胃がんの原因になっていくと考えられています。
従って、胃炎のうちに除菌を行って胃がんの発生を予防し、胃がんの死亡率を下げることが期待されています。
保険診療上の注意点は、事前の内視鏡検査が必須条件となっており、そこで胃炎の存在が確認されたらピロリ菌の有無を調べる検査に進みます。
もし陽性であれば、希望により除菌治療を行うことになります。
2つ目ですが、特に腹部症状がないなど保険でのピロリ菌診療ができない方は、『ABC検診』(胃がんリスク検診)が推奨されています。
この検診はピロリ菌と、胃粘膜の萎縮を反映するペプシノゲンを同時に測定するもので、血液だけで調べることができます。
検査結果の組み合わせから胃がん発生の危険度によりいくつかのグループに分けられ、除菌を勧めたり、今後の適正な胃がん検診間隔を推奨するなどしてがん予防に生かす方法です。
これまで胃がん検診といえばバリウム検査が主に用いられてきましたが、今後は胃がんになりやすい人とそうでない人を選別してその後の対応を決めていくこの方法が主流になっていく可能性もあります。
函館市では、この検診は今年度から特定健診のオプションとしても受けることができるようになりましたので、是非活用しましょう。
以上の新たな2つの動きは、がんの中で患者数の最も多い胃がんの撲滅に大きく寄与することが期待されています。
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)について
加齢黄斑変性は欧米では中高年の視覚障害の原因の第一位ですが、日本では緑内障や糖尿病網膜症がその上位で、あまり注目されていませんでした。
近年、日本でも患者が増加し、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性に対する人工多能性幹細胞(iPS細胞)の網膜移植の臨床研究が世界で初めて始まり、注目されるようになりました。
眼に入ってきた光は、角膜や水晶体、硝子体を通り、網膜の上で像を結び、見ることができます。
この網膜の中心にある黄斑は、重要な細胞が集中し、この部位に障害が生じると、視機能は大きく低下します。
滲出型加齢黄斑変性は、網膜色素上皮の下に病的な新生血管ができ、血液中の成分が漏れ出て、黄斑部の神経網膜が障害されるものです。
その症状は、初期は見ようとする部分がゆがんだり、ぼやけたりし、進行すると急激に重篤な視力低下を起こすことです。
この現在の最も有効な治療は抗VEGF薬療法です。
これは新生血管を成長させる血管内皮増殖因子(VEGF)を抑える薬を硝子体に注射する方法です。
やや高価で継続した複数回の投与が必要な治療ですが、視力の改善の効果があり、有効な治療といえます。
他に光線力学的療法があり、この2つの単独あるいは併用療法が現在行われています。
しかし、病状が進行した場合、治療にかかわらず視機能の改善に限界があるのが現状です。
今回始められるiPS細胞の臨床研究では、患者の腕から採取した皮膚組織を使って、iPS細胞を作製し、網膜に穴をあけて病的な新生血管や色素上皮を取り除き、この部位にiPS細胞から網膜色素上皮細胞に変化させたシートを移植するものです。
これは将来の治療につながるという意味では非常に期待がもたれます。
しかし、今回の研究はあくまで安全性に関する研究であり、視機能の改善の検討はその先になります。
現状を冷静にとらえて、早期に病気を発見し、現在の治療を開始、継続することが重要と考えます。
伝染性膿痂疹(のうかしん) ~とびひにご注意を~
膿痂疹は、主に子供に、そして夏に流行する皮膚の感染症で、水疱の中の液を触ることによって、まるで火の粉が「飛び火」するように他の部位に伝染することから、「とびひ」と呼ばれています。
この時期に多い膿痂疹は黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹で、虫刺されやほんの少しの傷がきっかけとなります。
特に鼻の中を触る癖がある子供は、容易に鼻に感染してしまいます。
薬は抗生剤の内服と外用を使用しますが、湿疹になり痒みを伴う場合は、ステロイドの外用を使用することもあります。
3日間抗生剤を内服しても効果がない時には、薬の変更が必要になります。
日常生活では、1日1回は石鹸で優しく洗い、患部はガーゼで保護し、爪を切り、タオルの共用は止めましょう。
患部を覆えば、登園登校は可能ですが、水遊び、水泳は控えた方がよいでしょう。
自宅で介護するということ ~訪問介護を利用しましょう~
「やっぱり家はいいなあ。」「連れて帰ってきて良かった。」と自宅で療養生活をしている皆さんからよく聞かれる言葉です。
訪問看護は赤ちゃんからお年寄りまで年齢に関係なく利用できます。
病気や障害を持った人が、住み慣れた地域や家庭でその人らしく療養生活が送れるように、私たちが『生活の場』へ訪問し、看護ケアを提供し、自立を促し、療養生活を支援します。
夜間も心配なことがあれば相談や自宅に訪問するサービスもあります。
家族や一人だけで介護できない、退院なんて不安で困ると思ったらまず、医師や近くの包括センター、ケアマネジャーに相談し訪問看護サービスを受けたいと話してください。
安心して自分らしい生活が送れるお手伝いをします。